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ブックマンJr.の備忘録、管理番号:153 2

前回からの続き。(そして、また続く)




命とは何か。生と死の境界線はどこにあるのか。
科学者なら倫理の壁を壊しても飛びつきたくなる、ひどく魅力的な研究テーマ。
しかし、実験で確認することはできない。
何故なら、生と死を峻別する方法がない。
ただ「息をしていないから死んでいる」「心停止後三分経過したから死亡」「瞳孔の拡大が確認できたから死亡」などなど事実を重ねて仮定を組み立てることしか許されない、神の領域。
しかし。
生と死の峻別が可能なら?


「二日前にイノセンス発動させた時、ミランダ言ったよな?」

『死者の時間は巻き戻せない』

「あれほどハッキリ言い切ったからには、前例の一つや二つ、あったんじゃねぇの?」

ギクリと強張る、細い体。
ビンゴ。
ラビは表情を変えずに、目の前の女性に視線を固定する。人好きのする優しい笑顔を貼り付けたまま。

「…ミランダのイノセンス、無機物にも有効だよな、この船の時間だって戻したんだから。だとしたら、死体の傷だって元に戻るはずさ。けれど、生き返らなかった?」

指が。細い指がテーブルの上でビクリと跳ねた。固く固く組み合わされる。
大きく見開かれた目が見つめるのは、過去の出来事。
フラッシュバック。軽度の精神障害。

死体と死体になる寸前の生者に対し、イノセンスを発動させる。リーバー率いる黒の教団本部・科学班一同の見守る中で。

バチカン配下の組織とあって、黒の教団員の教会への出入りは他の施設にもまして自由だ。
この時代の教会は身寄りのない人間の病院も兼ねてるので、訓練の『協力者』が自ら出向いて来たり、次々運ばれてくるわけだ。(加え、家族がいないから後腐れもない)
わざわざ作り出さなくても、毎日供給される沢山の『実験対象』。

「これは、オレの勝手な想像さ。で、想像ついでにもう一つ。
 『リカバリーは発動対象を最善の状態に保つ』とも言ったさね? いつが最善の状態か、判断するのはイノセンス? 例えば、『最善の状態』が2,3日前だったら? 2,3日分の時間を吸い取るんか? イノセンスが勝手に?? 2日、いや1日前までは元気だったケガ人や病人相手に発動させたら、どうなったさ?」

穏やかに問いかけながら、ラビはテーブルに置かれた細い指、華奢な手を自分のそれで包み込む。
酷く冷たい。
色の白さも相まって、雪のようなと喩えてみる。


もし。
もしそんな実験を行っていたとして。
『非人道的な』実験とはいえない。ただ『奇跡』を人為的に起こしただけのこと。
ただ。

「その『訓練』。ぬか喜びになる可能性があるからさ。隔離された部屋で行われたんじゃないか?」
そして、成功例だけが『奇跡』として教会の、慈悲深き神の御業(みわざ)として、讃えられる。

ミランダの体が、目に見えて震えだす。
カタカタと。
彼女の腰かけている椅子が、組んだ手を置く机が、音をたてて揺れる。船の揺れとは異なる揺れ方で。

「時を少しずつ吸い込んで少しずつケガの治療してみたりとかできるんさ? できるなら、ミランダが時を戻した次の瞬間に死んだ人とか、いた?」

見開いた目から涙があふれ出す。白を通りこして土気色の顔。
目の前の女性の反応に、覚えたのは満足感。もし自分が今気づかなかったら、誰の目からも隠されていただろう事実を掬い上げたことに対する。

決して後世には残らぬであろう実験とその当事者の存在に、意識を丸ごともっていかれる。
身を、のり出す。全てをこの左目に収めようと。

何を、見た? そのクマに囲まれた大きな目で。
何を、した? その虫も殺せぬような脆弱な腕で。
言わなくていい。顔に、態度に、書いてある。ブックマンにだけ分かるその文字を、感情のこもらぬ声で読み上げた。

「一体、何人殺したさ?」


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