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二人のロミオ、とジュリエット 18

二人のロミオ、とジュリエット17からの続きです。
粗筋→ティキさんにさらわれたミランダさんをラビ君が見つけました。(以上)

今回の副題は「Lに関するお題」より。
とにかく長いです。エピローグその1。



勿忘草

赤い糸の結び目 5


言いたいことは沢山あったはずなのに、何から話せばいいのか分からない。
一ヶ月間思い続けた青年を前にして、ミランダはただ涙する。
ラビは難しい顔をしている。
無理もない。
こんなに迷惑をかけてしまったのだ。
もう嫌われてしまった。きっと呆れられてしまった。
離れている間、そう恐れていた。
きっと次会う時、ラビはミランダを許してくれないだろうと。

一ヶ月ぶりに顔を合わせた原っぱで、ラビがミランダの名前を呼んでくれた時、ほんの僅か期待してしまった。
もしかしたら。

でもやっぱり、そんな都合のよいことなんてあるわけがなかった。彼は酷く冷たい目でミランダを睨み、思いを打ち明けてからは聞いたことのないような恐ろしい声で彼女を怒鳴りつけた。知らない男(ひと)のようだった。

悄然と肩を落とし、指を胸の前で組み合わせ、裁きを待つ咎人の心持ちでミランダは佇む。この場から逃げ出してしまえたら。

それでも、逃げてはいけない。義務は果たさねばならない。
言い聞かせ見上げた緑の隻眼は、ミランダを凝視している。なぜか、顔より少し下、首のあたりをジッと。
「ミランダ、オレはブックマンだから、一つ所に留まれない」
青年は切り出した。
知っている。知っていてミランダは選んだ。
許されなくても、呆れられても、僅かな時間をラビの仲間として生きることを。
ミランダは頷く。
「だから、多分、ミランダに寂しい思いをさせると思う。長い間、一人にすることもあると思う。でも、どこに行っても必ずミランダのトコに帰ってくるから。ミランダのこと、思ってるから。だから、待っててほしい。いや、」
グイと肩をつかまれた。少し痛い。思わず眉をしかめたミランダに、ラビは今まで聞いたことのない強い口調で告げた。
「待ってろ」
「ラビ君?」
ミランダはビクリと首を竦めた。何か、おかしなことを言われたような気がする。

「オレさ、ガキだから、何でもミランダの最初になりたかった。でも、過去のことをグダグダいうほど心が狭くないつもりなんさ。終わったことは仕方ない。大切なのはこれからだ。そうだろ?」
どこかひっかかるものを感じながら、頷く。これにはミランダも否やはない。
過去は大切だが、その過去を作りだすのは今という一瞬一瞬の積み重ねだ。

「ただ、過去は消せない。あったことはなかったことに出来ない。知ってしまえば、ミランダだって前の男と比べたくなるだろ? オレも、...多分、ミランダに触れるたんびに悔やむと思うんさ。何で...何でさっさと自分だけのものにしとかなかったんだろうって。一度でいい、そうしてたら、もっと...いや、ダメだ。やっぱあのヤロー、殺してやる」
ギリリとラビが歯軋りする。ようやっと、ミランダは相手の言いたいことを理解した。驚きに涙が止まる。誤解だ。
「ラビ君、待って! 私はティキさん...むぐぅ」
とは何も。
言いかけてラビの大きな手に口を塞がれる。大きすぎて鼻まで覆われてしまう。苦しい。
必死に目で訴えかけるが、ラビはミランダを見詰めつつも、どこか遠い場所を見ているような眼差しをしている。

「ミランダ。オレさ、心が広いつもりなんだけどさ。でも、やっぱ、他の男の名前がミランダの口から出てきて、平静でいられるほどできた人間でもないんさ。だから、これから先、オレの前で他の男の名前、呼ばんでくれる? あのノアのヤローはもちろん、アレンとかユウとかコムイとかリーバーとか」
息が苦しいやら言われた内容の難しさやらで目が回る。それはムリだ。黒の教団に身を置いて、そんなことができるわけが。
「大丈夫、白モヤシだとかパッツン侍とか、巻き毛室長とか、泡班長とか、呼び方はいくらでもあるさ。ミランダが思いつかなきゃ、オレが考えてやる。だから、呼ばんといて」
苦しい。
とにかく手を離してほしくて頷く。コクコクと。勢いよく。
パッとラビの顔が輝いた。いつもの彼だ。明るくて朗らかで優しくて、年下なのにミランダよりもしっかりしている青年。
手が離れると同時に、おもい切り息を吸いこむ。空気がおいしい。

「そんでさ、ミランダがキスすんの、オレだけにしてほしいんさ。挨拶で軽く頬にしたりするだろ、他の奴にも。でも、これからはリナリーやアレンがねだっても、オレの名前出して断ってくれるよな?」
確認?
そんなことより、迷惑をかけたことに対する糾弾はどうした。
呆れたのではなかったか、まだ嫌われていないと自惚れてもいいのか。
何より、さっきからのラビの要求は支離滅裂すぎる。賢く優しい彼らしくない。
誤解のせいでおかしくなっているのなら、早く真実を明らかにしないと。
そういえば、首に巻いたマフラーが赤黒く変色している。鼻をつく鉄の匂いは、彼の額から景気よく流れる血の匂いか。もしかしたら彼は、出血多量で頭まで血が回らなくなってしまっているのかもしれない。何てことだろう、ミランダ(正確にはティキ)のせいで!

「ラビ君、誤解よ! 私ティ、...い、え、う、その、とにかく神様の前で誓うことができないような、そんな後ろめたいこと、してないし、されてない」
「...本当に?」
「ほんと...」
ここで、ミランダは口ごもってはいけなかった。ノリと勢いでいい切るべきだったのだ、何もなかったと。
しかし。
ノリと勢い。
それはミランダに欠けた数多の資質のうちの二つだ。彼女の頭に、二週間前の夜が蘇る。
分かりやすく固まったミランダに、だがラビは微笑みかけた。ちょっとだけ寂しそうな光をこれ見よがしに目に浮かべて。

「ミランダ、オレ、ミランダを信じていいんだよな?」
「え、えぇ、もちろん」
ダラダラと、冷や汗が背中を流れ落ちるのを感じながら、ミランダは一生懸命頷く。しかと確証はないが、彼女は身の危険を感じている。誰よりも頼りになる仲間を目の前にして、一体どうしたことだろう。
「オレも信じたい。信じさせてくれる?」
もちろんだ。本当に、ラビが心配していることはなかったのだ。ミランダにできることなら何だってしてみせる。そして、厳しい運命を背負うこの優しい青年に自分のことでこれ以上の憂いを与えたりせず、安心させてあげたい。
けれど。

何で、ラビの口がこんなに近くにあるのだろう。(ラビが顔を寄せたからだ)
何で、顔が動かせないのだろう。(ラビの手がミランダのあごを捉えているからだ)
何で、細められた緑の瞳に見つめられただけで、こんなにも胸が苦しくて嬉しくて温かくなるのだろう。(それは、ミランダがラビを)

真っ赤になって目をつぶったミランダの耳に、ウサギが押しつぶされたようなうめき声が聞こえた。一瞬、体が自由になる。
驚いて目を開けたミランダは、次の瞬間、柔らかな体に抱きすくめられた。優しく甘い香りに包まれる。
「ミランダ、よかった! ミランダ、ミランダ」
涙とともに、額、左右の頬、額へ温かくて柔らかな唇が降ってくる。
「私、ラビから聞いて、それで、ずっと、ずっと心配で、酷いことされてないかって...!」
キスの集中豪雨を途切れさせ体を離したリナリーが、ハッと息を呑んだ。やはりミランダの首の辺りを見詰めた後、堰を切ったように言葉を重ねる。
「ミランダ! 私、私、何があっても、ミランダの味方だからね、どれだけ辛くても生きててくれるだけで嬉しいの。だから、この一ヶ月間のことは、悪い夢でも見たと思って...思って...」
ボロボロ涙を流して、リナリーはミランダの頭を柔らかな胸に抱き寄せた。

優しい抱擁と言葉はミランダを何より勇気づけてくれたが、ラビといいリナリーといい、何を気遣ってくれているのだろう?
よくわからない年下の仲間たちの言動に目を白黒させながら、ミランダは恐る恐る少女の背中に腕を回した。
「ありがとう」
自然こぼれた言葉は、心からの気持ちだった。
「それで、あの、リナリーちゃん...ラビ君の上からどいてあげた方が...」
一ヶ月前より少し伸びた緑の黒髪を宥めるようになでながら、自分より目線が高くなっている少女を見上げた。彼女の足の下には、赤い髪を地面にくっつけ、隻眼の青年が仰向けにのびていた。

慌てた風にリナリーがラビの上から飛び降りた。起き上がってパタパタと土を払うラビにミランダが手を差し出した。
「ラビ君、帰りましょ?」
「...あぁ!」
少しの間を空けてラビが笑った。ミランダの薄い手の平に重なる厚くて大きな手。伝わる温もり。一月離れていただけで、こんなにも懐かしい。
いつか必ずくるだろう別れの後、自分は本当に耐えられるのか。
こんな時、どうしても心配になってしまう。
でも。
ミランダはラビと一緒に居たいと望み、彼との時間を選んだ。
時は戻らず進むだけ。その先に別れが待っているとしても。
未来は誰にも分からないが、ミランダがそのことを後悔することはない。

「ミランダ、今夜、ミランダの部屋に行くから待っててく...ぐぇ」
「今夜は私と一緒に寝ましょ、ミランダ? 最近、教団内も物騒になっちゃって」


多分。

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