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二人のロミオ、とジュリエット 17

二人のロミオ、とジュリエット16からの続きです。
粗筋→ティキさんにさらわれたミランダさんをラビ君が見つけました。(以上)

今回の副題は「Mに関するお題」より。



勿忘草

刻(とき)の魔女 4


「ミランダ!」
聞こえた声に、二人同時に顔を上げた。青い空を背景に、小さく赤い影が動く。
目をこらせば人影は長く伸びた棒に立ち上がり、四方八方へ声を張り上げていた。
ふ、と目が合った。
片目を眼帯で覆った顔に、喜色が浮かぶ。赤い影は柄から飛び降り、今まで乗っていた箇所をつかみ取った。柄を縮めて引き寄せた槌を振りかぶる。
タイムオーバー。
最初から傷などなかったように、長身の持ち主はすっくと立ち上がった。傍らに座り込んでいたミランダの細い肩をつかんで立たせながら。
グッと顔を寄せる。ティキだけが映るダークブラウンの瞳も、これで見納めだ。

「ミランダ、選べ。オレとあの赤毛が戦うのと、ミランダがオレにキスするのと。どっちがいい?」
「?!」
この二つは、天秤の両端にのるようなことだろうか。
選択を迫った当人すら意味の分からぬ二者択一。愚かな女は即座に選び取った。
ミランダは、唇を引き結んで手を伸ばす。頭一つ分、高い場所にあるティキの頬へと。それから、優しいキスをした。十字の浮き出た形のよい額へ。
金の目が瞬く。
「ティキさん、お元気で」
ミランダが言った。ティキは何も言わなかった。目を細めた後、眉根を寄せ口の端を上げて。
背を向けた。


それが、ミランダが白いティキを見た最後。

***


18xx年、-2週間。
組み敷いた細い体から力が抜けた。拍子抜けだ。ティキはちょっとつまらない。
抗うミランダを押さえつけズタボロにしてやるつもりだったけれど、諦め受け入れるのならそれもいい。
どうせすぐに飽きる。何度か楽しんだら、あのボーヤに返してやってもいい。
あの赤髪の青年が彼女に手を出してないことは、すぐにわかった。あのマセガキも、ミランダがあまりに奥手で切り出せなかったのかもしれない。後生大事に抱えていても、一旦離れりゃこの通り。
精々自分のマヌケさを、地団駄ふんで悔むがいい。

「ミランダ」
名前を呼ぶ。意外に豊かな胸に顔を埋めて。吸い上げて、赤い跡を付ける。
顔を離し、のけ反る白い首を顎へと辿る。柔らかい耳朶を甘噛みし、背けられた顔を唇で追いかける。きつく噛みしめられた薄い唇の端、自分のそれを押し付け舌を這わせる。目に見えて鳥肌立てる女の様子に、暗い愉悦がこみ上げる。

尖った顎を片手で掴み、ようやっと捉えたダークブラウンの瞳。浮かぶのは絶望か諦観か。片頬を上げて覗き込めば、見返してくるのは強い光?
認めて一瞬、ティキの動きが止まる。
疑問が形になる前に、股間を強く蹴り上げられた。

目の前を星が飛んだ。比喩でなく。
転げまわりたかったが、なけなしのプライド(そんなものがあったのだ、彼にも)で堪えた。ベッドに突っ伏し身悶える大きな体の下から素早く抜け出たミランダを横目に見ながら、ティキは自分の中の相手に対する興味が急速に薄れていくのを感じていた。

元々、ちょっとした気まぐれだったのだ、この女に声をかけたのは。
何だか懐かしく感じられる場所で、どこかで見たような表情を目にして、何かを思い出しそうな気がした。とても心地よいことを忘れてて、あのまま殺したり見逃したりしたら後悔すると思った。
思わずつかんだ腕は棒切れのように細くて少しも楽しめそうになかったのに、何故か離し難くて、それなのに女がイノセンスを使って自分を拒んだのが許せなかった。

ティキが千年公から与えられた領地は、女の足で一晩歩いたぐらいでは抜け出せないほど広い。ついでに、敷地内にはAKUMAが番犬代わりにうろついている。
イノセンスを持たないミランダは普通の人間と同じで、彼女は普通の人間よりも運が悪いから、AKUMAに出くわす可能性は高い。
そしたら、殺人衝動に支配された番犬に殺されるだろうが、別に構わない。
もちろん、運よくAKUMAに出会わずティキの土地から無事に彼女の仲間たちの待つ場所へたどり着くならそれもいい。

痛みに涙を滲ませるティキの頭に、バサバサと柔らかい何かが投げつけられた。思わずつぶった目を開けると、彼の視界は赤一色。その元となった布地をつかみ取って、つい先程までこれを身に着けていた女を眺めた。
「お返しします! 下着は今夜はお借りしますけど、明日キチンと洗ってお返しします。食事代も後でちゃんと返します。こう見えても、今の私には結構貯金があるんです」
「ミランダ?」
相手の言動の意味がつかめない。ティキは顔と眉と語尾を上げた。

「私は! 私は嬉しかったです。ティキさんが生きてて。声が聞けて。優しくしてもらって。綺麗な服を着た自分を見てもらえて。笑いかけてもらえて。本当に、おとぎ話の中にいるようでした。
 たとえ、ティキさんにとっては気まぐれでしかなくても。大切な誰かの練習台でも! これでティキさんが本当に楽しそうだったら、AKUMAが周りをウロウロしてるって脅されても、今頃ここには居ませんでした。逃げなかったのは、少しでもティキさんに喜んでもらいたかったからです! 四年前の恩返しをしたかったから。
 でも、でも、...私は、一人で勝手に空回って、マヌケなこと言って、バカなことして、ティキさんを呆れさせるだけで...」
泣きながら向けられた背中はビスチェに半分覆われただけで、とても寒そうだった。怒りで足の痛みを忘れてる。薄っぺらいペチコートの纏わりつく挫いた足をかばう様子がない。明日になれば腫れ上がって大変なことになるだろう。

ヒョイと伸ばした触手(方舟で使えるようになったヤツだ)でミランダをつまみ上げた。自分の寝っ転がったベッドの上にポスリと落とす。何が起こったのか分からないまま再び起きあがろうとする華奢な体を、胸に抱き込んだ。
「ミランダ、待ちな。そんな格好じゃ風邪ひくだろ」
「放して下さい! もう何も借りません。もう、何も...」
「いいから。そんな貧相な体見せられちゃ、たつもんも立たない」
「ひ、貧相って、貧相って、ティキさん!」
「何、襲ってほしい? だったら、試してみなくもないけど」
「けけ結構です」
腕の中、ミランダはいつまでも震えていたが構わなかった。どうせ、同じ夢など見れやしないのだ。
ティキは温かな体を抱きしめて眠った。この夜見た夢は忘れた。




ごめん、ティキさん。
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