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二人のロミオ、とジュリエット14からの続きです。
粗筋→ミランダさんとラビ君が任務で公園にいました。ティキさん+AKUMA登場、戦闘終了後、ミランダさんはティキさんにさらわれてアチコチ連れまわされていました。のを追っかけてたラビ君がようやっと見つけられたようです。(以上)
今回の副題は「Tに関するお題」より。
快楽主義者の落し穴 5
光の差し込まぬ洞窟の中、女の泣き声がこだまする。狭い空間に響き渡るその声は、まるで輪唱でもしてるようだ。ミランダは涙を滝のように流して盛大にしゃくり上げる。
「あれは、あれは誰ですか」
「誰って、ミランダの大好きな年下の恋人、ブックマンJr.じゃねーの?」
「だって、あんなに怒ってて、あんな冷たい目で、まるで、まるで」
「...不覚。オレちょっとだけ、あのジュニアに同情した」
「ティキさん?」
薄い体を二つ折るようにして自分の肩に担ぎ上げているので、彼女の表情をティキは想像するしかない。が、間違いない。ミランダは涙に濡れた目を瞬かせ、キョトンとした顔をしている。これだから、自覚のない女ってのは。
ティキはため息のように言葉を吐く。ポンポンと彼女の体を宥めるように叩く。
「あ~、よしよし。ミランダ、泣くなって。恐いんだよな? 逃げたいよな、あのジュニアから。オレが助けてやるよ。このまま行きゃ、すぐに地上に抜ける出口に着く、今度は地中海あたりどうだ?」
「そんなこと言ってません! 私はラビ君に話さなきゃいけないことが沢山あるんです、早く行かないと...」
「んなこと言って、借金踏み倒す気?」
「! 借金は、その、あの、キチンとエクソシストとして働いて必ずお返ししますから」
「その話は後でな。とりあえず、ここから離れるのが先だ。ここら辺は洞窟があちこちに繋がってっから、まぁ、屋敷の反対側あたりに出りゃどうにかなんだろ。ジュニアには気の毒だが、また追いかけっこだ。次はも少し早く見つけてもらえるといいな?」
「誰が言い出したんですか! 離して下さい、私、自分で歩きます」
「勘弁してくれ。ミランダ歩かせたら、一週間かかっても出口までたどり着かない」
「どういう意味ですか?」
「なぁ、ミランダ。もう少し、自分ってもんを知ったほうがいい。『敵を知り己を知れば百戦危うからずや』。博識の恋人に教わんなかった?」
「知ってます! ...それは、今の話とどんな関係があるんです?」
ミランダは気づいているのだろうか。こうして言葉を交わしている間にも、彼女の体が様々な物体を通り抜けているのを。
気づいてないだろうなぁ。
声に出さずにボヤキながら、ティキは悠々と足を進める。天井が低かろうと道が狭かろうと彼には関係ない。尖った岩をすり抜け大きく開いた穴の上の空気を踏みつけ、最短経路で目的地を目指す。
彼だけなら地中を移動してもいいのだが、ミランダを連れてとなるとそうはいかない。
自分同様、抱えている彼女の体にだけならこの世のあらゆるモノを選ばせることが彼には出来る。
が、彼女の常識が何を選ぶかまでは選べない。
不器用な女は、さっきも地上から洞窟内部に落ちるまでの地中をすり抜けている間、息を吸おうとして土を飲みこみかけた。せめて、ミランダの顔付近だけでも普通に空気のある空間を通る必要がある。
面倒なことこの上ないのに、肩の上で暴れる華奢な体を放り出そうと思えない。
理由などない。単なる気まぐれ。
言いきかせるよう、心の中で繰り返すティキの目に、温かみを帯びた明かりに照らされた洞窟地面が丸く浮かび上がった。
洞窟から外へと続く細い道は、上り階段のようになっている。
いびつな丸を描く出口から覗くのは、そよ風に揺れる下草と羊雲の浮かぶ青い空。手で壁を押しのければ、土の塊がボロリと崩れた。ティキは肩の上のミランダをもう一度担ぎなおして声をかける。
「障害物なしっと。んじゃ、」
「そのままおとなしくそっから出てもらおーか? ティキ=ミック」
首にヒヤリと硬い何かが当たる。目だけ動かし、それが長い黒い棒であることを知った。ティキは動きを止める。
彼の肩の上、ミランダが身を捩り声を弾ませる。
「ラビ君!」
「ははは、眼帯くん、鋭いね」
「褒めてくれてありがとさん。じゃぁ、ムカデノアのおっさん、その汚い手、さっさとミランダから放してくれる?」
「言うね、エセ兎コウモリ」
「離して下さい、ティキさん! このままじゃ、アナタも闘えないでしょう?!」
「何、ミランダ、オレと眼帯くん、闘うの決定?」
「違うんですか?」
「言うだろ、三十六計、逃げるが勝ちってな!」
イノセンスをやりすごすコツは、この二週間で身に着けた。一歩後ずさり、突きつけられた棒から首を引きぬく。
いきなり手ごたえを失った自身の武器に、赤毛の若者は片目を見張る。一瞬、動きが止まった相手に、拒絶した空気の塊をぶつける。煽られ二、三歩よろめくのを目の端に映して、後ろに跳び出口周辺の土くれを崩した。みるみる塞がる小さな出口。長い棒を辿った先、かろうじて覗く手がこちらへと伸ばされる。
「ミランダ!」
「ラビ君! ラビ君!」
肩の上、ミランダは上体を起こして体を捩り、腕を出口のあった方向へと伸ばそうとする。も一つおまけと大きな岩を目の前に落とすと、ティキはクルリと踵を返した。手の中の軽い体を自分の胸に抱き寄せ、今来た道を引き返す。
それから、ティキは出くわした分岐点を右に曲がり左に曲がり、何度か岩壁を通り抜けた。腕の中の華奢な体は何度かむせてせき込んでいたが、気にしなかった。
そうしてどれほど歩いたか。気づくと、どこにも道の繋がっていない小部屋のような場所にティキは立っていた。軽く息を吐いて、腕の中で息を詰めるミランダをイスに似た岩の上に座らせ、自分も地面に座り込む。
すると、組み合わされた細い指がティキの目に映った。何も考えずにその手を引き寄せ口づけて、どんな顔をしているのやらと面白半分に見上げた金の目が、メガネの奥でパチクリ瞬いた。
無精ひげに囲まれた口がへの字に曲がる。
「ティキさん、ラビ君は頭がよくて調べものが好きなんです」
ミランダはまっすぐティキを見ていた。言い聞かせるような口調だった。
気に食わない。
自分のことさえ満足に知らないミランダが、何を自信たっぷりに教えようというのか。ティキはフイと横を向き無言で応えた。
「この洞窟の中についても、多分、ティキさんよりラビ君の方が詳しいです」
「じゃ、しらみつぶしにこの洞窟の中を探し回るのかね。ご苦労なこった。ま、そのうち諦めんだろ」
「...ラビ君の木判は、自然物すべてを操ります。だから...」
ミランダの言葉が終わるやいなや、地響きがティキの耳を塞いだ。
ゴゴゴゴ
地殻が揺れる。地面が揺れる。海でもないのに、視界が上下に振れる。
周囲を見回す。揺れているのはティキだけではない。
「うっそだろ」
「だから、ティキさん。彼の操ることのできる地面の中に入った時点でアナタの負けです」
ミランダは落ち着いていた。どこからこの余裕は湧いてくるのか。共に暮らしたこの一ヶ月(もしかしたら四年前の二ヶ月間も)、ついぞ目にしたことのない顔で彼女は淡々と語る。
その間にも、パラパラと土砂が落ちてくる。雨のように、ティキとミランダの髪と服に降り積もる。
ミランダにはラビの方が詳しいと断言されたが、ティキだって知っている。彼らの座り込むこの場所の上方には、ティキの屋敷が建っている。
もし地盤がゆるんで地面が沈んだら、漆喰と大理石とレンガ、その他諸々、とにかく重くて硬い材料で構成されたそれらも沈み、地中の彼らを容易く押しつぶすだろう。
いや違う。
ティキはそれらを選ばないことができる。押しつぶされるのは。
「ミランダ殺す気か、眼帯!」
ティキの怒声は、彼らの周りを埋め尽くす土砂にかき消された。
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