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二人のロミオ、とジュリエット 10

二人のロミオ、とジュリエット9からの続きです。
粗筋→ミランダさんとラビ君が任務で公園にいました。ティキさん+AKUMA登場、戦闘終了後、ミランダさんはティキさんにさらわれてアチコチ連れまわされていました。そのことを黒の教団側が知りました。(以上)

今回の副題は「Lに関するお題」より。



勿忘草

赤い糸の結び目 2


「なんでラビなんですか! 眼帯つけてあんな髪で、社交界に出入りできるわけないじゃないですか!」

アレンがコムイに食ってかかる。その様子を笑って見守るリナリーの髪は高く結い上げられ、後れ毛の残る白いうなじが目に眩しい。エクステンション、つまりは付け毛で長く見せかけた髪を上げるというのだから訳が分からない。
髪が短くてもリナリーは綺麗だとアレンは言い張ったのだが、これも一種のお約束、なのだという。
確かに、結い上げられた髪の上にのる小さなティアラは彼女に似合っているけれど。

リナリーが纏うイブニングドレスは淡い紫のラベンダー色、えりぐりが横に大きく開き華奢な肩をかろうじて守っている。鎖骨がチラリとのぞく襟元には、銀と青い宝石(多分サファイア)が涼しげな輝きを放つ。
袖は長く手首まで覆い、ドレスの裾は歩けば後ろを引き摺るほど長い。
小さな耳には可愛らしい真珠のイヤリング、キラキラと光を弾く布地と同色のビーズがドレスのあちこちに縫いこまれている。
何度見ても、可愛らしくもうつくしい。まっすぐ背を伸ばし優雅に扇で口元を隠して微笑む仕草。淑女かくあるべし、という見本になりそうなほど。
だから、リナリーは構わない。
問題なのは、こんな彼女をエスコートするのが、完璧な英国紳士との呼び声も高いアレンでなく、燕尾服より旅人のマントが似合うラビであるということだ。

「なんでって、とりあえず神田君は考えるまでもなく却下だし。クロウリー君はこんな時に限って長期任務中だし。アレン君は…身長が、ね」
「ぐぅっ…でもボク、ここにきた時より伸びてるんですよ!」
「あ~、確かに、高くなったよね。ただ、見栄え的に最低でも十センチは差が欲しいんだよねぇ、せっかくリナリーの社交界デビューなんだから。いや、正式にお目みえする時はもっと立派にキチンとするつもりだけどさ。その時はドレスだってこんなみすぼらしいのじゃなくてもっと品よくかつ豪華で可愛らしい、それこそリナリーのためだけに作られたような…」
しまった、長くなる。
コムイが、リナリーはいかに美しく可愛らしく彼女にふさわしいドレスや宝石を見つけ出すのがいかに難しいかを延々と語り始め、アレンが内容には頷きながらも延々続きそうな話に肩を落とした時。

「何でとはご挨拶だな、アレン」
完璧なクイーンズイングリッシュ。
よく知る声の聞いたこともない発音。振り向いて、アレンは目を疑った。誰だ、これ。思わず頬をつねってみる。

後ろに撫で付けられた長い前髪。右目にはモノクル。濃い色が付いているので、結局目の様子は分からない。両耳のピアスはいつものリングタイプのものから暗い光を放つ小さな宝石に変わっている。
黒のジャケット、燕尾服用のズボン、ウィングカラーのシャツ、白ベスト、白蝶ネクタイという、19世紀末現在、米国の若者の間で流行しているタキシードスタイルに身を包みながらも、皮肉たっぷりの口調で微笑む様は正に英国紳士。

「ラビ…いつもの語尾はどうしたんです?! あれこそラビのアイデンティティでしょう!」
「何、オレのアイデンティティてそんなん? っといけね、気ぃ抜くと出てくんな」
白い手袋に包まれた手で口元を覆う目の前の青年の仕草に、アレンは少しだけホッとする。
どんなにフォーマルな服であっても着崩して身に着けるのがラビの常だったので、一分の隙もなく礼装を着こなす彼の姿などアレンは想像したこともなかったのだが。

目にして知った、見る者が息苦しくなるほどの完璧な装いがこの世にあることを。
カツリとかかとを鳴らして正装したリナリーが隣に立つと、そこだけ別世界。今なら彼らの後ろに煌めく女王陛下の宮殿すら見えそうだ。
悔しいけれど、ハイヒールのせいでいつもより五センチほど高い位置にあるリナリーの目を、更に十センチ以上高い位置から見下ろすことができなければ、今の彼女の隣には立てないのだと認めざるを得ない。
感嘆のため息が、優雅とは間違ってもいえない、書類が床を覆う部屋に満ちた。アレンのこぼしたものもその中には含まれている。

そんな空気を知ってか知らずか。ため息の中心に位置する二人は、好戦的な光をその目に宿し、見る者即座に凍りつきそうな表情を浮かべる。
不思議だ。
リナリーがツと手を差し出し、ラビが形だけは非常に典雅に差し出された細い指を掬い上げて口付けた。
ただ、それだけのことで、何だってここまで緊張した空気が流れるのだろう。
彼らの細めた目は、笑みのつもりだろうか。普通、笑うという行動は、もう少し何というかこう、心を和ませてくれるものだったような気がしなくもないのだが。
そう、例えば、彼らがこんな格好をしている原因となった女性の微笑みが、いつだって周囲の雰囲気を和らげたように。

「戦闘開始さ。麗しのレディ、準備はいかが?」
「望むところよ」

背筋を凍らせつつ、聞こえた会話にアレンは首をすくめた。

***

黒の教団側が方舟を使えるようになり、エクソシストたちが世界各国を移動する時間は劇的に短くなった。
とはいえ、まさか貴族の屋敷を訪ねるのに歩きでというわけにもゆかない。結局、目的地の近くの教団関連施設まで道を開き、そこから馬車を用意して入り口に乗りつける形になる。面倒なことこの上ない。
特に、今回馬車に揺られることになった二人は、非常に便利な高速移動手段を持っているわけで、互いに交わす会話に刺が含まれても仕方ないのかもしれない。

リナリーがそう自分に言い聞かせているというのに、向かい合わせに座る同乗者は彼女の努力も知らず、あっさりと一番聞いてほしくないことを口にする。

「次こそは当たりなんだろうな?」
「夏の社交シーズンが始まって、毎晩どこかしらでパーティが開かれてるんだから。無茶言わないでよ」
「…わり」
「ん」

広がる沈黙。石畳を走る車輪の音、馬の蹄が規則的に道を蹴る音。その単調なリズムに、思い出したくもない、ここ二週間で出席したハズレの夜会の様子が音声つきで鮮やかに蘇る。

クスクスと笑うのだ。リナリーのよく知る女性の話をしながら。
『いつもミック卿の腕に縋って歩いてまるで』(どこぞの高級娼婦)『結構モノ知りのようですけど、それにしたってあの自信なさ気な態度は』(淑女失格)『私、見てしまいましたの、あの方、手の甲に大きな傷がおありのようでしたわ。あんな傷物…まぁ、失礼、私ったら何て言葉を! でも、あれではきちんとしたご縁を結ぼうなんて奇特な方、』(いらっしゃらないんじゃないかしら)
そして、『ねぇ』とみんなで顔を見合わせる。扇に隠された口元は、嘲りに醜く歪んでいたことだろう。

ビリリと布が裂ける音が響く。リナリーの抱えていたクッションの中に詰められていた小さな羽毛が狭い馬車の中をフワフワ舞う。
「リナリー、そのクッションで三つ目さ」
声の出処へ目をやれば、彼は足を組んで、腕を胸の前で組んで、窓に頭をもたれかけさせている。目を閉じているので、緑の瞳は見えない。
「ラビはよく平気ね」
「平気そうに見えるん?」
「えぇ」
「コツ、教えてやろっか?」
リナリーを一瞥し、続けた人を人とも思わぬ辛らつな言葉に彼女はしばし言葉を失う。

忘れていたわけではない。
ラビがリナリーに初めて挨拶した時の冷たくガラス玉のような瞳を。自身すら突き放してモノのように観察する態度を。
薄々感じながら、よくもこの二年間、自分は平気で彼に接していたものだ。

ラビと世界の間に築かれた透明で高く強固な壁を壊したのは、間違いなくアレンだ。リナリーにも神田にもできなかったことを、年下の少年はあっさりとやってのけた。
そして、毎日毎日、飽きずに張られる目に見えない薄いベールを融かし続けていたのは。
クマに囲まれた大きな目、整っているのにそう感じさせない顔がリナリーの記憶の中、柔らかく微笑む。
待っていてほしい。必ず助けてあげるから。
思い出すだけでこみ上げる涙を必死でこらえて、リナリーは心の中で呼びかける。年上でありながら、彼女よりよほど泣き虫で恐がりの女性に。
今だってきっと泣いている。あんなノアの男に捕まって。酷いことをされていないといい。酷いことをされていても、生きててくれればそれでいい。

そろそろ涙がこらえきれなくなって、慌ててハンカチで目元を押さえる。こんな時、アレンならそっと指を差し出してくれるだろうと思いながら。
そこでふと。嫌な想像をしてしまった。
例えば、アレンがノアの彼女に連れ去られたとして。一ヶ月間、一緒に暮らす?
「リナリー、その扇で五つ目」
気付くと、彼女の手の中で、扇が真っ二つになっていた。

***





そろそろ服の描写が苦しくなってきた(笑)。
Wikipediaによると、タキシードは20世紀初めにアメリカで流行し始めたらしいんですが、そこはそれ。舞台は仮想19世紀だし!←万能の魔法の言葉。
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