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二人のロミオ、とジュリエット 6

二人のロミオ、とジュリエット5からの続きです。
粗筋→ミランダさんとラビ君が任務で公園にいます。ティキさん登場後ティキさんとミランダさん退場。ミランダさんはティキさんに振り回されてます。(以上)

今回の副題は「Tに関するお題」より。



勿忘草

快楽主義者の落し穴 2


差し出されたティキの手を頼りに、足元に置かれた階段を一段一段確かめながら、二頭立ての馬車から玄関のエントランスへとミランダは降り立った。
一回り背の高い連れの左腕に二の腕までの長い手袋に包まれた右手を添えて、毛足の長いじゅうたんを踏みしめゆっくり進む。
たどり着いた扉を、両脇に姿勢よく佇む礼装に身をかためた使用人に開けてもらえば、煌めくシャンデリアに照らしだされる部屋が黄金に輝きながら彼らを招き入れた。

まずは、二人そろって屋敷の主の元へと足を運び、礼を述べる。
お招き頂きまして、素晴らしい庭園ですね、などなど。喋るのはティキだ。まるで銀のスプーンを握って生まれたかのような、よどみなく洗練された話し方で、優雅に微笑む。
その後、黒の燕尾服を隙なく着こなした紳士は、部屋の隅の柔らかなクッションの用意された一人がけのソファに自分の婚約者を座らせ、絡めた指に口をつけた。
「んじゃ、ミランダ、ここでいい子にしてろな」
「ティキさん、ちょっと待ってくだ…」
最後まで言わせず、ティキがミランダのそばを離れて小さな円卓で交わされていた談笑の輪に溶けこんでいく。見事の一言、とても彼女には真似できない。
一体何度目だろう、このやりとりは。

ティキは毎日毎晩、飽きもせずミランダを社交の場である貴族の夜会や狩猟へと連れ出した。
参加してみて分かったのだが、社交の場というのはダンスや狩りをしていればいいというものではない。むしろ、おしゃべりをするためにダンスがあり狩りをするというのだろうか。
主な目的は情報交換、そして大小様々な知己を得るための場、とミランダは理解した。

そして彼女は途方にくれる。
ミランダには、交換するような情報も、得たい知己もない。であれば、周りで交わされる彼女にとって意味のない会話を曖昧な笑みを浮かべながら黙って聞いているしかない。
一体、ティキは何を考えているのだろう。

何が目的なのかは分かる気がする。
楽しみたいのだろう、彼は。

優雅な所作も、社交の場に出る者なら知っていて当然のマナーも知らないミランダは、狩猟や夜会に参加するたび、必ず失敗をしでかす。
その度にティキがそつなくフォローし事なきを得るが、毎回恥をかいているミランダにしてみたら堪ったものではない。
それでは、ノアの天敵、エクソシストであるミランダを笑い者にして溜飲を下げようとしているのかというと、そればかりではないらしい。

「ミランダがウサギ逃がしたときのアイツらの顔、見たか? ポカンと口開いてマヌケにも程があらぁ」
「すましたツラしてあの夫婦、チャイナ(磁器)をミランダに壊されたってツバ飛ばしてののしりやがって。オレが贋物だって教えてやった時の他の連中の目といったら!」
「あそこにいたのの半分は、ブローカー。テメェらと同じ旧人類、叩き売ってお家の誇りってのに恋々としがみ付いてるヤツラさ」

これらはどれも、ティキの屋敷に戻り、二人で軽食を取っているとき彼が口にした内容だ。彼が健康的な楽しみ方をしていないということだけ、ミランダには分かる。
同意も非難もしかねて彼女がうつむくと、ティキはケタケタと笑う。
「悪いな、メシが不味くなるか、お優しいエクソシスト様。高潔な聖職者は自分をあざ笑った連中の悪口も言えねぇか? さすがは偽りの神の使徒、立派でいらっしゃる」
食べ終わると、ミランダにあてがった部屋へと彼女を送り届け、四年前とは全く違ってしまった姿かたちで四年前と同じセリフを囁く。
「おやすみ、ミランダ。よい夢を」
優しく目を細めて髪をなでて。背を向ける。
酷い男(ひと)だと思った。

「それはダンテの神曲、Purgatorioでしょう」
とりとめもない考えに浸っていたミランダは、すぐ近くで交わされていた謎々の答えをごく自然に口にしていた。
ピタリと会話がとまる。
何か、おかしなことを言ってしまったのだろうか。
さしで口をきいてしまった、とおろおろ視線をさまよわせるミランダに、左前方でグラスを傾けていたプラチナブロンドの紳士が問いかける。
「おや、神曲を原語で読んだことがおありでしたか」
「えぇ、あの、知り合いに詳しい者がいるものですから」
「失礼、では…」
目を輝かせて身を乗り出す。随分とお話の好きな人だ、ラビと気が合うかもしれない。
思い浮かんだ旧知の青年の明るい微笑みに、強張っていた顔が緩む。
言葉が途切れたのを不思議に思って目を上げれば、話しかけてくれていた紳士が頬を僅かに赤く染めていた。どうしたのだろうと小首を傾げる。
「ミス・ロットー、こういった話はいかがです? 例えば、」
頬を染めた紳士の後ろ、茶色い髪の青年が何か言いかけた時だった。

コトリ

ミランダのそばの小卓に、小さな音をたててシャンパングラスが置かれた。なぜかヒヤリとした。
ミランダの右隣にティキが立っていた。慌てて立ち上がった彼女の手を、当然のように自分の腕に引きよせる。
「お楽しみのところ失礼。私にフィアンセをお返し頂けますか?」
誰にも真似できない優雅さと獰猛さを含んだ笑みを、彼は整った顔に浮かべていた。なぜかミランダの体がすくむ。
卓に置いたグラスを取り上げたティキが手を滑らせ、こぼれたアルコールがミランダの手袋に染みをつくる。彼は眉をしかめ、ミランダの腕に手を滑らせた。
「あぁ、汚してすまない。代わりのものを」
ざわりと小さな波紋。
人前で女性の手袋を脱がせるなどその女性に対して破廉恥な侮辱行為である、というだけでない。さらされたミランダの手の甲に残る大きな傷跡に、ある者は目を剥きある者は口をおさえた。周囲の無遠慮な視線が彼女に集まる。

こんな反応には慣れた。何も、恥じることなどない。
思っていても、視界は滲む。
ミランダが唇をかみ、それでも視線を落とさずにいると、柔らかな温もりを手に感じた。
ティキが傷あとに口づけ、代えの手袋をはめてくれたのだ。顔を上げた黒髪の紳士は、本物の英国紳士以上に英国紳士らしい表情で暇を告げた。
「お騒がせしましたことをお詫び申し上げます。では、失礼」
ティキは強引にミランダの肩を抱きよせて(およそ、紳士らしからぬ態度だった)、その場を後にした。

「あのティキさん、すみません、私、またご迷惑を」
ミランダの履いている靴は、かかとが十センチある。測ったことはないが、立ち上がってティキと目を合わせたときの顔の角度から考えると、多分それくらいだ。おまけに細い。ピンヒールというやつだ。生まれもって平行感覚のおぼつかないミランダは、ティキの腕に縋らなければ歩けない。
だが、ティキが速足で歩くのでついていけない。

こんな風に不機嫌そうなティキを、ミランダは初めて目にした。公園で再会してから今日までの二週間だけでなく、四年前の二ヶ月間だって、彼はいつも楽しそうに笑っていた。
さっきのミランダは、そんなにおかしなことをしてしまったのだろうか。
何度も思い返すが、思い当たることが多すぎて(おまけにそれらはいつものことだ)何を謝ったらいいのか見当がつかない。

よろめくようにして歩く彼女の足元でグギと嫌な音がした。ガクリと膝が落ち、脱げた靴がドレスの裾から転がり出る。ミランダの顔に血が上る。恥ずかしさに目がくらむ。

ティキがようやっと立ち止った。ミランダを一瞥し、無造作に手を振る。どこからともなくスツールが運ばれてきた。
「ミランダ、座って」
タキシードの少年が足音もたてずティキへと近寄る。少年が恭しく差し出したハイヒールを相手の顔も見ずに受け取ったティキは、腰かけたミランダの足元へとひざまずく。ドレスをそよとも動かさずに彼女の足を探り当て、靴を履かせてくれる。
「褒美を頂いても?」
彼は、ドレスの裾、タップリとったひだを皮肉げな笑みに歪む唇へひきよせてから、立ち上がり手をミランダへと差し出した。

ミランダは安堵の息を吐き勢いよく腰を上げ、すぐさまスツールにへたり込んだ。足首が痛い。どこかに氷はないだろうか。
苦痛に背中を丸めたミランダは、次の瞬間、慌ててティキの首に両手で縋りついた。横抱きに抱え上げられた男に手を放されては困るとの、彼女にしては珍しく素早い判断だった。

しかし、目にした者が彼女の行動をどう感じるかまで頭が回らないのが、ミランダらしいといえばミランダらしかった。



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