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二人のロミオ、とジュリエット3からの続きです。
粗筋→ミランダさんとラビ君が任務で公園にいます。ティキさんも登場しました。(以上)
今回の副題は「Lに関するお題」より。
夕闇は消えた 2
ラビの怒号をきれいに無視して、ティキは掴んでいた細い腕を引き寄せミランダをベンチから立たせた後、彼女を見下ろし楽しそうに笑った。その笑顔に、ミランダは目を瞬かせた。
「もしかして、日本でぶっ倒れてた貧弱な女のエクソシストって、ミランダ?」
「...ティキさん?」
信じられないと彼女のおののく唇が語る。本当に貴方なのかと、涙ぐんだ瞳が問いかける。
掴まれたのと反対の腕、細い指が男へとのばされる。
ビンゴ!
嫌な予感ほど現実になるらしい。たちの悪い冗談だと笑いとばしてしまいたい。ティキ=ミックがミランダの昔話の『彼』だなどと。AKUMAの皮にされるより、たちが悪いじゃないか。
堪らず、ラビは叫んだ。
「ミランダ、何してるさ。コイツはノアだ、殺される気か!」
告げた事実にミランダは凍りついた。高い位置にある顔を凝視する。
突き刺さりそうな視線を受け止めた男は、愉快そうに杖の真ん中を掴み、いぶし銀を被せた握り部分でシルクハットを押し上げた。姿を隠した太陽の残光を受けて、形のよい額に浮かぶは茨の冠。ノアの証。
次の瞬間、ミランダは身を捩った。が、腕を掴む手が離れない。必死に自由になる方の手で相手を押しのけながら、ミランダがラビを見た。ラビは頷き、イノセンスをつかむ手に力を込める。
ラビの動きに気付いたティキは、杖の先端をミランダの喉へつきつけせせら笑った。
「おっと、眼帯くん、そのままな。数少なくなったエクソシストの中でも更に希少種の女のエクソシスト、これ以上減らしたくないだ...っ!」
バチッ
何かに弾かれたように男の手が宙をかく。機を逃さず、ラビはミランダを引き寄せ背後に庇う。対峙したティキの目が細まる。彼が離した彼女の細い腕に輝くは黒い刻盤、ティキたちノアにとって憎きイノセンス。
常なら、選ぶのはティキで拒むのも彼だろう。
が、ミランダのイノセンスは時を操る。ノアの時間であろうとそれは変わらない。
ラビの背後で、ミランダが彼女のイノセンスを発動した。サポーターの老人とミランダの周りが停止した時に囲まれる。タイムアウト、彼女の持つ絶対防御。
安堵の息を吐く間もなく、判を叩いて火と雷を頭上に放つ。気付けば、十を越すAKUMAが空に浮かんでいた。うち何体かはラビの打ち出した炎と雷に散じて消えた。
ひっきりなしに降りかかる氷や光の弾と面白そうにラビを見つめるノアの男。それらを意識の端に留めながら、ラビはイノセンスを振りまわし風を操りAKUMAを叩き潰してゆく。
太い木の幹を盾に銃口を向けるAKUMAを伸ばした柄で突き壊し、縮めながら薙いだ一秒前までノアが占めていた空間はからっぽだった。気配を探るも、簡単に悟らせるようなら苦労はしない。
分かっていても、舌打ちがもれる。
目を転じれば、ダイスでダイスを構成しているようなAKUMAがベンチの側、ミランダとサポーターの老人が避難する空間にバネのような腕をぶつけて弾かれている。
それは駆け寄るラビを一瞥し、振り向きざま大人の頭より大きい拳で殴りかかってきた。地面に転がりダイスアクマの背後に回ったラビは、体を起こして横向きに武器を振りかぶる。
ダルマ落としの要領で連なるダイスを一つずつ弾きとばし...ているような余裕はないので、素早くダイスの一つに判を押して炎が包むにまかせた。
油断なく視線を巡らす。公園のあちこちにAKUMAの残骸が転がり炎に焼かれている様は静寂から程遠い。
が、目につく限り、動くものはない。
ラビは、ホッと一息ついて。眉を寄せた。隻眼が宙を見据える。昔はこれくらいで安心なんてしなかったはずだが。
地面に柄をつき槌にあごをのせて、どうしたものかと唇を引き結ぶ。けれど。
「ラビ君!」
聞こえた声に思考停止。面倒なことは後で考えればよい。
へにゃりと笑ってミランダ(と老人)に手を振る。
「おまったせ~。ミランダ、じーさん、大丈夫か?」
「あぁ、ありがとうございます、エクソシスト様。まさかティキ=ミック卿がノアの一員だなどと全く知らず...」
ラビに走りよる老人の喉が割れ、砲口が飛び出した。それが目の前に突きつけられる寸前、極度に肥大した老人の丸い頭部は、黒い槌の下で潰れていた。
小さな爆発音、ラビには聞こえないはずの解放された魂の叫びが大気を震わせる。
「悪ぃな、じいさん」
一瞬だけ、ラビは隻眼を閉じた。そして、小さくしたイノセンスを太腿に収める。
「任務完了っと。さ、ミランダ、帰ろ」
黒の教団(ホーム)へ。
クルリとガス灯へ背を向けて、気配の薄い女性を見遣る。姿がない。グルリと周りを見回す。人の気配が全くない。
「ミランダ?」
呼びかけても、応えがない。さっきラビを呼んだ、控えめで優しい声が聞こえない。
「ミランダ!」
名前を呼ぶ。声を荒げれば、彼女が謝りながら姿を現すような気がして。
けれど、聞こえるのはAKUMAの残骸がパチパチと燃える音だけ。目に映るのは、人間の血に似たオイルの染みがあちこちに散らばる、レンガ造りの地面だけ。
空に放った火判の残り火が、頭上からパラパラと降り注いだ。そのうちの一つがガス灯に明かりを点け、視界がいくらか鮮明になる。いつの間にこんなに暗く。
恐慌に駆られてラビはガス灯の柱を後ろ手に殴りつける。明かりが揺れる。影が踊る。目をこらし、ベンチに残された黒い服に気付いた。慌てて手をのばす。
左胸にはローズクロスの刺繍、その下に一つだけ大きな銀ボタン、大きな歯がかみ合わさるファスナーが右袖全体を走る。
間違いない、ミランダの団服だ。
陽が沈み夕闇は消えた。曖昧な闇はもういない。
今、ラビの周囲に広がるのは、明かりがなければ一寸先も見えない夜の闇。
そのただ中に、ラビは呆然と立ちつくしていた。
戦闘シーンはなぁ~、あーうー。読み飛ばして大丈夫ですよー。
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