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二人のロミオ、とジュリエットからの続きです。
粗筋→ミランダさんとラビ君が任務で公園にいます。(以上)
漆黒の腕(かいな) 2
ミランダとラビとで向かった任務先に公園があった。
ミランダは懐かしそうに、ガス灯の下のベンチに座った。
案内してくれたサポーターの老人がミランダに訳を尋ねた。
ミランダは自分の住んでいた街にここと似た公園があったこと、その公園にまつわる(男との)思い出があったことを途切れ途切れに話して聞かせた。
面白くないのはラビだ。
口をへの字にしたラビが見つめる先、ミランダは目の縁に涙を滲ませたまま、じっと地面を見つめている。
その男と一体何があったのか。どんな事件だったのか。
尋ねあぐねるラビへ、ミランダは一方の答えをあっさり与えた。正確には老人へ。
「ただの事件だと。思っていたのですけど。黒の教団で昔の記録を調べて分かったんです。AKUMAが関係していたと。彼の遺体は見つからなかった。…もしかしたら、あの人は『皮』になってるかもしれない」
『皮』。悪性兵器AKUMAの隠れ蓑。哀れな魂を閉じ込める人間の形をした牢獄。
では、何らかの悲劇がその男を襲ったということだ。記憶の中、条件に合う記録を探す。もう少し詳しくと言いかけたラビは、ふと思いとどまった。
今彼女が着ているのはエクソシストの黒い団服。
最初に会った病院でも、帽子、身に着けた踝丈のドレス、ブーツ、どれも黒色だった。教団に来る前はどうだったか知りようもないが、これまでラビが見た彼女の私服は全て黒もしくは紺、よくて暗褐色。
彼女の控えめな性格、華美を好まぬ性質をラビは誰より知っていたので不思議に思わなかったが、今の話を聞いて嫌な想像が頭を掠めた。
そういえば、とラビは思い出す。アレンから聞いたことがあった。ミランダとアレンが出会ったベルリーニの街でのミランダの様子。
黒いドレス、黒いストール、黒い髪留めでひっ詰められた短い髪。
脳裏に描かれたその姿はまるで。
(喪服に身を包む未亡人)
ブルリと頭を振った。長い赤髪が揺れる。
不確かな情報を元に仮定をいくら重ねたところで真実には辿りつけない。ミランダは静かに地面を見つめている。これ以上、この話を続ける気はないらしい。
だったら、ラビが今尋ねるべきは。
頭を切り替え、サポーターの老人へと視線を移す。
「それでジイさん、この公園の持ち主の名前は思い出したんか?」
「それが、喉まで出掛かってるんですが後もう少し何かが足りんようでして。何でしたかな、ティー、は紅茶、マック、はハンバーガー、ティック、は時計、…」
老人が顎に手をあてブツブツ呟くのを横目に、ラビはガシガシと頭を掻いた。
この公園はとある貴族の私有地なので、正確には『公園』とはいい難い。が、厚意で一般市民に開放されている。おかげでラビたちも自由に歩き回れる。
通信ゴーレムを通して聞かされた大雑把な話だと、この公園を中心にしてAKUMAが何体か目撃されたらしい。『ブローカーかもしれないから、公園の所有者である貴族の調査もよろしく』と指示されている。のに、当の貴族の名前が分からない。
前の任務地から直接現地入りしたとはいえ、詳細を知らないで来てしまったのはマズかった。『任務先はオーストリア、リンツェン駅でミランダと落ち合ってね』などと言われて二つ返事で頷いて、浮かれた挙句がこのザマだ。
ミランダと一緒に駅でラビを迎えてくれたのは、ファインダーではなく何故かサポーターの老人。この公園に詳しいというから案内を頼んでみたものの、肝心の貴族の名前が出てこない。しきりに首を傾げていた。
挙句ミランダと世間話を始め、成り行きで彼女の昔話を聞けたはいいが、内容はラビにとって面白くない他の男の話。ため息をこぼしたところでバチは当たるまい。
顔を上げれば雲が赤い。視界の隅に映る山と空の境目は濃い藍色。目の前の鬱蒼と茂る針葉樹は黒。『誰ぞ彼』とも言われる魔の時間が近い。そろそろ教団の用意してくれた宿泊先へと戻らなければ。
ラビは凝った意匠のベンチから腰を上げて大きく伸びをした。ミランダを振り返り手を差し出す。
「ミランダ、今日はもう、」
言いかけて目を疑った。自分とミランダの間に、黒ずくめの男。ラビに背を向けて立っている。気配はしなかった。いつの間に。
呆然としたのは一瞬、すぐに太腿から自分のイノセンスを取り出し男へと突きつける。
が、男は慌てず騒がず、片手に持ったステッキの先で老人の肩をポンポンと叩いた。
「ティキ=ミックだろ、じーさん」
「そうそう、ティキ=ミック卿! お? おぉ、お久しぶりですのう、ミック卿」
腕を組み頭をひねっていた老人がパッと顔を上げた。男の姿が影となり、ラビからはミランダの表情が窺えない。ただ、男の白い手袋を着けた大きな手が、彼女の黒い団服に包まれた腕を掴み取るのが分かった。
「ミランダか?」
問いかける声は低く甘く、魅惑的で。
さて、ようやっと始まり始まり。
暫くはLMTの更新が続きますよー。
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