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9/24、16:23に拍手くださった方、観用少女をご存知でしかも好きなお話も一緒とのことで、喜んでおりますv (ちょっと昔のマンガなので、誰も知らないかなーとか…)あのキラキラした洋服や儚げな雰囲気のプランツたちを少しだけでも自分で書いてみたかったのですが~(あえなく玉砕)。何はともあれ、拍手ありがとうございました!
また、レスなしのパチパチ、いつもありがとうございますv
では、「つづきはこちら」クリックで宝石姫1の続きです。
1.ガーネット(後)
思わず手を伸ばし、そっと、頬を流れ筋を作るそれを拭ってやる。初めて触れたプランツの頬は、絹よりすべらかで雪のように冷たかった。
「お客様」
背後から咎める主人の声がかかると同時。
パチリとプランツの目が開いた。大きな目、瞳は深い闇の色。
ラビと目が合う。
と。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
目を覚ましたプランツは、涙を湛えて謝りだした。いきなりの出来事に、ラビはパチクリと隻眼を開閉させる。
「…なぁ、観用少女(プランツドール)って喋らないんじゃなかったっけ?」
「これまた珍しいケースではありますが。まぁ、プランツドールのまま育つこと自体が珍しいのですから、あってもおかしくはありますまい」
何でもありかい。
半ば呆れ混じりに吐いたため息に、目の前のプランツらしくないプランツは肩を揺らした。
ボロボロと涙を流して、ごめんなさいと繰り返す。
「私は、プランツじゃありません。…なりそこないなんです」
彼女は、ボロボロと涙を流し顔を両手で覆う。
「おい、店主さんよ、こういうことは…」
「まぁ、ありますでしょうね。実際、プランツが申しておりますので」
「あんた、ホントに店主かよ」
「私は、彼女たちの飯係と申しますか、世話係と申しますか。それより、お客様、如何なさいますか?」
「?」
「お客様はこのプランツに選ばれたようですが」
「…オレが!?」
観用少女は、誰もが買える訳ではない。プランツ自身が選ばれなければ、どれほど大金を積もうとも触れることすら許されない。
事前調査でそう聞いた時は半信半疑だったが、実際にこの店で眠るプランツを目にし「さもありなん」と信じかけていた矢先のこの成り行き。新手の詐欺かと眉を跳ね上げた青年の様子を気にかける風もなく、店主はあっさり頷いた。どこから取り出したものか紙と筆を手に、サラサラと何事か書き付ける。
「そうですね、彼女自身が『なりそこない』と」
(ここで、プランツはビクリと肩を震わせた)
「申しておりますので、そのことを割り引きまして…お値段はコレ位になるかと」
差し出された紙に記された数字にラビは目を剥いた。
無理だ。
コレだけの金があれば一年間は遊んで暮らせる。欲しかった希少本だって買い放題。
あまりの高さに、逆にホッとした。このプランツを買わない理由としては、これだけで十分だ。
いかにも残念そうに肩をすくめ、元々垂れている目尻を更に下げた。嘆息がてら、ぼやいて見せる。
「プランツ買う奴って、金持ちが多いんさね」
「そういった方ばかりではございませんので、ローンを組まれるお客様の数の方が多いと記憶しております」
だから、無理だって。
自由業といえば聞こえはいいがローンを組めるほどの安定した収入など、今のラビにはないのだから。
プランツの縋るような眼差しを背中に感じながら、頭を横に振った。
「そうですか。残念ですが。仕方ありません」
「悪い、ない袖は振れぬってことで。で、彼女はこれからどうするんさ?」
「また眠ることになりますね」
「眠らせんの? 目覚まさせたまま、働かせてやればいいじゃん。第一、眠らせるってどうやって…」
「プランツの仕事は愛されること、唯一の相手に笑いかけること。この店にそのような仕事はございませんので。
また、眠らせることに関して申し上げれば、今回のように不幸なアクシデントは稀ではありますが過去にもございましたので。まあ、メンテナンスが必要ですが」
店主を名乗る男の笑みは、あくまで優しく柔らかい。メンテナンスの内容を知りたい気もしたが、ここは黙るが吉だろう。
ラビは曖昧な笑みを浮かべて、風変わりなプランツから一歩遠ざかる。店主は何事もなかったように、店の奥へと足を進めた。
「…また、悪夢にうなされるんかさ?」
「さぁ、それは。彼女の特徴のような気もしますので、彼女が変わらぬ限り同じ夢を見続けるでしょう。それが悪い夢か良い夢かは…些事と申し上げて構わないかと」
何故か気になって尋ねたラビにサラリと答えた相手の、首の後ろで一つにまとめたゆるいウェーブの髪を見ながら足を進める。先程のプランツの髪。色こそ違えどこんな感じだった。ラビはどうにも居心地が悪い。
あれほど心を弾ませた店のアチコチに飾られた異国趣味の品々も、今は怪しい中古品にしか見えない。
背後から、先程のプランツの押し殺した泣き声が聞こえる。針の飛んだレコードが同じフレーズを繰り返すように、ごめんなさい、と繰り返している。
マズイのだ。
ラビは駆け出しのモノ書きで、安定した収入など望むべくもない。住んでる部屋は築十年の2LDK、一人暮らしには広すぎると言われるが、二つの部屋のうち一つは完全に本で埋まっている。残り一つの部屋も、ベッド周りの僅かなスペースを除いて、散らかった世界各国の新聞で足の踏み場がない。おまけにボロイ。
生活も不規則だ。一ヶ月間部屋に缶詰になったかと思えば、三ヶ月間外国の空の下をフラフラしている。その間、あのプランツをどうしろと。
いくら自分の意思で動くことができるからといって、プランツ一人に留守番させるなど考えるだけで恐ろしい。長旅から帰って最初に目にするのが、プランツの変わり果てた姿だったりしたら!
服だって買ってやれない。
コムイなど「リナリーに同じ服を二度着せるなんてとんでもない」と言っていなかったか。ラビの部屋が丸ごと入るような広いクローゼットに山と飾られていた、靴、バッグ、髪飾り、宝石を散りばめたネックレスにペンダント。
今でこそアレン一人だが、それまではリナリーの世話係としてメイドが三人いた筈だ。毎朝毎晩、あの美しい黒髪を梳(くしけず)り、服を見立て、風呂の用意をし、ベッドを整えていた。
そして何より。
一日最低一度、人肌に温めたマグカップ一杯のミルク。プランツが口にする唯一つ栄養。
コレばかりは、他の誰かに代わってもらうわけにはいかなかった筈だ。必ず、プランツの選んだ人間が手ずから与えなければ、プランツは枯れてしまう。
幾ら考えても、答えは決まってる。
ラビはあのプランツを買うべきではない。
もっと他に…例えばコムイのように、金と人手を幾らでも掛けてやれる人間を待つべきなのだ、あのプランツは。
あぁ、でも、何だか彼女はトロそうじゃなかったか。待っている間に育ちすぎて、皺々のおばあちゃんのプランツにでもなって、いや、そういう珍しいのが好きな金持ちだって。
しかし、けれど。
考えれば考えるほど、思考の深みにはまっていく。そのこと自体が既に答えなのだと。
分かる程度にラビは賢かった。
ラビは一度だけ、首を大きく振った。踵を返す。大股で古時計に近づき、その隣、俯いて顔を覆っているプランツの前にしゃがみ込む。そっと手を伸ばし、もつれて艶のない黒髪を優しく撫でた。
すると、プランツの薄い肩がピクリと震えた。彼女は恐る恐る顔を上げる。大きな黒い瞳が、ラビを映す。
青白い頬を伝う幾筋もの涙を指の背でぬぐってやる。ニカリと。恐がらせないよう笑顔を向けて、ラビは言う。
「ハジメマシテ、オレはラビ。アンタの名前は?」
降る雪に外のざわめきは吸い取られ、聞こえるのは互いの呼吸だけ。
そんな静かな夜、ラビは彼女と出会った。
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