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いつも拍手ありがとうございます!
本誌の動きが今ひとつなので、本当にうれしいです。今月こそは予告載っててくれないかな~。
さて、今回は気の早いバレンタインです。
去年はリーバーさんだったので、今年はラビくんで。相変わらずラビくんもミランダさんも不憫な気がしないでもないですが、まあ両思いなんだからいいんじゃないかな!(笑)
よろしければどうぞ。
オレンジ兎とワルツ 6
黒の教団本部で料理長を勤めるジェリーの朝は早い。勤務の不規則な団員たちのために二十四時間営業の食堂を預かる者として自ら夜勤シフトも組み込む彼女ではあるが、この寒い季節に早起きするのは辛いものだ。ましてこの建物は造りが大きい分、冷え込みがきつい。
シンと静まる廊下を歩いて冷たい指先に息を吹きかけながら簡易キッチン前を通り過ぎようとする。と、中から何やらガタゴト音がする。これから向かう厨房ほどではないが、ここも彼女の管轄する教団設備だ。不審に思ってドアを開けるとコンロ前に一つ、その側のテーブルに一つ、人の姿が認められる。更に室内に入り込み、それが誰だか判明したところで思わず声をかけていた。
「ミランダ? ラビも! こんなに早くから何してんの?」
「ジェリーさん?」
振り向いたミランダの手からお玉が滑り落ちる。無駄と知りつつ手を伸ばしたジェリーの目の前で、素早くラビが立ち上がり調理器具の取っ手を受け止めた。
「ミランダ、これで三度目さ~。気ぃ付けんと」
「ごめんささい、ラビくん。でもありがとう!」
顔を赤らめたミランダが、大げさなくらいに自分が使うお玉の取っ手を握りこんだ。
「あと、何やってんだか知らないけど、コンロの火、弱めた方がいいんじゃない? 中身が煮立ってるわよ」
ジェリーの指摘にミランダは目に見えて慌て始める。
「え、そんな……きゃーホントにまあ、えーと」
「つまみはこっち。とりあえず火を止めとこ?」
「うん、そうする。でもおかしいわねぇ。まだ真っ白のまんまだわ」
コンロに鍋とくれば、ジェリーの専門だ。漂う甘い香りに引き寄せられるように、ミランダと一緒に鍋を覗きこむ。そこにはミルクらしき液体がなみなみと湛えられている。
「何を作ってんのかしら?」
「えーと、ココアを少し……」
「ココア?」
「チョコレートっていうんですっけ? 熱くてカカオと砂糖が入ってて、それをミルクで溶かすらしいんですけど」
「ココアでもチョコレートでもいいけど……この鍋で?」
ジェリーが尋ねるのも無理はない。ミランダが使っている鍋は、業務用シチューやカレーを作るのに使われそうなほど大きい。
「はい。教団の皆さんに配るのなら、これくらい量が必要だと思って」
「配る? 何を?」
「え、だからココアを」
いつもなら気長に付き合うジェリーだが、今日はこれから厨房での仕事が入っている。時間短縮のため、再びコンロ近くの椅子に戻った青年へと矛先を変える。
「ラビ! 説明!」
名指しされたラビは肩をすくめ、簡潔に答えをまとめる。
「説明も何も。ミランダがいつもお世話になってる教団の皆さんへココアを配りたいんだってさ。ミランダが言った通だろ」
口調にどこかトゲがある。
「だから何で今日なの」
「今日が聖バレンタインだからです」
ミランダが嬉しそうに口を挟んできた。珍しいこともあるものだ。
「ラビくんによるとですね、イギリスでは今日は恋人同士が贈物を交換する日なんですけど、極東の島国ではお菓子会社の陰謀で女の子から男の子へ手作りチョコと一緒に告白する日になったらしいんです」
「……そう。で?」
「陰謀はよくないことだけど、それで勇気が出るならいい習慣じゃないかって。だから、任務でいない人は仕方ないとして、残ってる人にはココアを差し上げようかと」
ようやっと理解が追いついた。さっきからラビがふてくされたようにしているのも。ジェリーは呆れたようにミランダへ確認する。
「教団のみなさんに?」
「教団のみなさんに」
「いつもありがとうって告白するの?」
「何だか照れますけど。ここの人たち、イベントごと好きだから。あと……」
顔を赤くしてジェリーにだけ聞こえるよう声をひそめる。
「たくさんの人たちに配ったら、ラビくんの分も紛れてバレないかと」
口に人差し指を立てて見せて、ミランダは鍋に向き直った。
「それでさっきからミルクを温めてカカオと砂糖を入れながらかき混ぜてるんですけど……白いままで」
ため息をついたミランダから離れ、ジェリーはラビの足をつついた。声は小さいが、口調はきつい。
「ラビ、あんたもう少し分かりやすくねだれないの?」
「オレとしちゃ、チョコレートをオレにくれと言ったつもりだったんさ……」
「今ごろ私に言っても仕方ないでしょ」
「のりかかった舟ってことで、ジェリーから言ってくれると嬉しいかなって」
「あんた……」
ひたすら呆れるジェリーに、ミランダがおずおずと声をかけた。
「それよりジェリーさん、お仕事の時間は大丈夫ですか?」
「……そうね、厨房へ行く途中だったわ。ここが落ち着いたら、ミランダも食べに来なさいね。朝食まだでしょ?」
「はい。じゃあまた後で」
鍋から目を離さずにジェリーを見送るミランダの近くから、情けない声が上げる。
「ジェリ~」
「自分でまいた種は自分でどうにかしなさい」
足早にドアへと向かう。なおも続く抗議の声に心を動かされなかったとは言えないが、極東にはこういう時にふさわしいことわざがあったはずだ。
いわく。
人の恋路を邪魔するものは、馬に蹴られて何とやら、と。
当人たちが気づいてないのにほんの少し同情しないでもないが。
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