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さて、今回は前回の続きです。
ミランダさんは最後にちょこっと(数行だけ)出てきます。ここはミランダさんがメインのblogです(確認)。
よろしければ、どうぞ~。
(あるいは喜劇)(後)
バクいわく、彼の初めての写真はぼやけていた。画面の中央には女の子が一人、両手両足を投げ出して、仰向けに眠っている。
すんなりとのびた手足。光を浴びてきらめく明るい色の長い髪。ピンボケがひどいので断言はできないが、骨格や肌の色からすると人種はコーカソイド。とすれば、閉じたまぶたの下の瞳はきっと空の青をしている。
場所はどこだろう。大きな木の根元、にしては眠る少女の周囲を青々とした芝生が囲んでいる。少女が着ているのが真っ白なワンピースとあって、色の対比に目がくらみそうだ。
それにしても、草地に直に寝転がるとは女の子にしては随分と勇ましい。胸のふくらみはなきに等しく、身長こそ高いものの年齢は十か十一……人種を考慮に入れれば一桁の可能性もある。
レニーの顔から血の気がひいていく。
「バク…………アンタ……」
しぼり出す彼女の声はうめきに近い。その迫力にバクはおののきつつ、言うことだけは立派なものだ。
「言いたいことがあるならさっさと言え、オマエらしくもない」
「ずっとロリコンだロリコンだ言ってたけど……そりゃ犯罪だと薄々知りながら放ってた私も悪いわよ……でも私より、いつも側にいるウォンの責任は重いわよね。そうよ、ウォンよ、何してたの、まさか、まさか、少女趣味通りこして幼女趣味ってアンタ……私、トウイおばさまに何て言えば…………!」
「な! 違うっ!! どさくさに紛れてオマエは何を言ってるんだ! これを撮影したのは二十年前だ! その時、彼女は、ここに映ってる子はボクと一歳しか違わない年齢で、遊び疲れて眠ってるとこをボクが見つけて、丁度ゴーレムのプロトタイプが手元にあって」
「その頃から盗撮してたってこと? 聞く限り、この女の子に承諾もらってなさそうじゃない。しかもそんな写真を後生大事にこんなとこにしまっとくなんて……分かった、私が捨てとく。この子には、ちゃんとアンタから謝っときなさい。
それとも、知らせない方がいいのかしら。そうね、自分の写真がロリコン趣味の男の手元にあったなんて、知らないにこしたことはないわ。二十年もたってるなら、彼女の行方が分からなくなっててもおかしくないし」
言いたい放題にこき下ろされたバグの顔は赤くなったり青くなったり忙しい。あまりの言い草に言葉が追いつかず金魚のように口を開閉するだけだったが、レニーがアルバムをパタリと閉じて席を立つと、バクは声を荒げた。
「レニー? オマエ、何考えてる?」
「私の出来ることよ」
男の詰問を、女は短く切り捨てた。
「レニー、待て! 話がある」
「私はないわ」
「オレ様にはある! 戻れ、座れ、そしてオレ様の話を聞け!」
ベッドに背を向けたレニーは、椅子にかけていたコートを腕に持って歩き出していた。追いかけてくる言葉にふと、彼の母親の最期を思い出す。この親子は声も口調も似ていない。それなのになぜ今頃と不思議に思いつつ、言葉は彼女の意思と別のところから流れ出た。
「体を大事にね。アンタはアジア支部に必要な人間なんだから。あと早く子どもを作りなさい。フォーのことを考えて。あの子を縛れるのはアンタの血だけなんでしょ?」
怯む気配を背後に感じた。返された言葉は彼女の口に微笑を浮かばせる。
「それは、自由になるということじゃないのか」
「分かってるくせに。なあに、お姉さんに甘えたくなった?」
「レニー!」
「あら、ウォン。せっかく用意してもらったのに悪いわね。私の用事はもう終わったわ」
年下の昔馴染みをからかいながらレニーが開けたドアの先にはウォンが立っていた。見れば彼の後ろに山盛りの菓子やコーヒーポット、ティーポットにバーボンのボトルを載せたワゴンもある。これらが彼女のために用意されたのは明白なのだが、言葉通り彼女の用はもう済んでいる。
口ばかりの謝罪で老人の脇をすり抜けるようとすると、まるで彼女を押しとどめるように戸口の真ん中に立つ老人の体がピクリと動く。「ウォン、レニーを行かせるな。連れ戻せ」と言う主の指示が理由だろう。伺うように見下ろしてくる皺深い顔に、レニーは黙って首を振る。痛みを堪えるように相手の白い眉が寄せられる。
この人がいるならバクは大丈夫。
レニーの体を言いようのない安心感が包む。いまだ喚き続ける馴染みの声をBGMに、北米支部長は病室を後にした。
レニーは方舟の間へと急いでいた。元々彼女が本部(ここ)に留まれる時間は僅かだった。その貴重な時間を割いて訪ねた同僚との会見は、しかし思った以上に彼女の気持ちを軽くした。
そのためだろうか、いつもより注意力が散漫になっていたようだ。ヒールの靴音を高らかに響かせて廊下の角を曲がった彼女は、自分以外の体にぶつかり足を止めた。
「きゃあっ」
ぶつかった相手の声にというより、眼前を舞う何枚もの白い紙にレニーは目を丸くする。
その白を背景にくっきりと浮き上がる黒いシルエット。黒い髪、黒い瞳、黒い服のこの女はエクソシストだ。石造りの床に尻もちをつきこちらを見上げてくる。名前は確か、
「ミランダ……」
イノセンスに選ばれた存在。AKUMAの卵をあの場に留めて、ただ一人敵の目的を阻止しえた人物。レニーが何もできなかったあの場所で、バクを、リーバーを、文字通り命がけで救った戦士。レニーが頭の中で更に言葉を続ける前に、ミランダの謝罪の言葉が廊下に響き渡った。
「ああ! すみません、私、前を確認してなくて、いえ、してたんですけど注意力が足りなくて、いえ、そんなことより! ケガ、ケガはありませんか?!」
心配するのは転んだ彼女の方が先だろう。考えすべてを口から垂れ流すような相手の言葉を聞いてレニーは我に返った。
自分は今、何を考えていた?
「あなたこそ。大丈夫?」
「はい、私は……ああ! 書類……!!」
気を取り直して手を差しだしたが、相手は勢いよく飛び上がって散らばった書類を拾い始めた。躊躇は一瞬。すぐに彼女の手伝いを始める。集めた書類にざっと目を通し、レニーは短く呟いた。
「この書類……」
「これだけで分かるんですか?」
「そりゃまあ昨日の日付が付いてれば誰だって分かるでしょ。レベル4のデータ? あの騒動でよくデータ収集できたわね」
「バク支部長が方舟用にゴーレムを強化してくれていたおかげだそうです」
「……そう。何であなたがこれを?」
「データの解析に人手が足りないそうで。お見舞いついでに、バク支部長へ届けるよう頼まれました」
病室の住人までこき使おうとは、さすが本部と感心すればいいのか呆れればいいのか。
頭数が足りていないことだけは明らかだが。
「あら?」
ミランダが声をあげた。何となく彼女を見守っていたレニーもつられて彼女の視線を追う。と、白い書類に混ざってセピア色のスナップ写真が見える。
レニーのコートのポケットから落ちたようだ。丁度良い。
問いかけるような相手の眼差しに、頭を振って歩き出す。
「この写真……」
「捨てといて。もう、いらないものだから」
「え、でも!」
「いらないの」
なおも言い募ろうとするミランダをその場に残し、レニーは足を速めた。
九年前にあの実験を始めた時、きっとトウイは今の自分と同じ気持ちだった。
根拠のない確信に背を押され、レニーは北米支部へと帰って行った。
時を巻き戻すイノセンスの適合者であるミランダの手に、一枚の写真を残して。
分かりにくいと思いますが(それはいつものこと)、レニーさんがミランダさんへ渡した写真に写ってるのは小さい頃のレニーさんです。
で結局、この写真はバクちゃんの手に戻ると思います。
レベル4襲撃事件の最後、バクちゃんが担架で運ばれてくとこにウォンさんが来たとき、最初に聞いたのがレニーさんの安否だったので、この二人は割と親しかったのかなと想像力をたくましくしてこんなお話になりました。
科学班関係の考察ならぬ捏造は毎度のこととスルーして頂ければ幸い(笑)
当時のアメリカ大陸の人口は割と少ないので、北米支部の重要性はそこまで高くないんじゃないかと。オスマントルコのある中東支部のがまだ存在感あるような。あれ、その理屈でいくとオセアニア支部の存在は空気に。
いやまあ、どこの支部にしても優秀だから支部長やってるんでしょうが。
とにかく、ミランダさんメインの当blogで、レニーさんメインのお話にお付き合い頂きありがとうございました!
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