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さて今回は今更ながらの黒の教団本部襲撃編直後~サード登場あたりのレニーさんとバクちゃんのお話。ポ/ルノグ/ラフティをメドレーで聞いてたら降ってきました。
構想だけはかなり昔からぼんやりとあったんで、肩の荷が下りた気がします。
ミランダさんメインの当blogで、レニーさんメインなお話の需要はどうなの。まあ需給が合ってないのはいつものことだ、よし自己解決(笑)
とはいえバクちゃんの誕生日が近かった筈なので、ある意味タイムリー?
ミランダさんは最後にちょこっと(数行だけ)出てきますが、今回前編なので出てこないです。
よろしければ、どうぞ~。
約束された悲劇(前)
「入るわよ」
言うと同時に扉を開けたレニーの目に、予想通りの光景がとび込んでくる。思わず肩が落ちた。
この男とのつき合いも長いとはいえ、少しは意表をついてほしい。
レニーが訪れたのは、白い病室だ。
部屋の真ん中に置かれた大きなベッドの上で、小柄な男が抱え込んだ枕をシーツへ押しつけるようにしてつっぷしている。その側では初老の男が主の突然の行動をどうフォローしたものかと立ちつくしていた。
ベッドの住人はバク・チャンといって、黒の教団アジア支部長という地位に就いている成人男性(29歳)、初老に見える男性はサモ・ハン・ウォン、代々チャン家に仕えてきた一族の長(75歳)である。主従そろって外見から年齢を推測するのが難しい。
気を取りなおして、レニーはベッドの枕元に置かれた簡素な椅子に座った。コートはたたんで椅子の背にかける。
彼女が見ている前でバクはどうにか体勢を立てなおし、枕を背にかばうようにして上半身を起こした。その体に発疹は見当たらない。わずかながら進歩したようだ。少し前だったら全身じんましんという事実を理由に門前払いをくらっただろう。
「元気そうね。お見舞いはいらなかったかしら」
「オマエはピンピンしてるな」
「おかげさまで」
「何だ気味悪い。普段の鍛錬の成果だと自慢して、ボクの努力が足りないと説教しにきたんじゃないのか」
レニーは苦笑した。これが嫌味でないのが、自分がこの男を嫌う理由だと告げたらこのカエル坊ちゃんはどんな顔をするんだろう。
のどに小骨が引っかかったような苛立ちを持て余す。小さく呟いてレニーが視線をベッドの足元へ向けた。
「あ」
「?」
つられた相手が視線を足元へむけ、彼女への警戒が薄れる。その隙に、レニーはバクが隠そうとしていたアルバムを枕の下から引っ張りだした。
焦って取り返そうとする相手を軽くいなし、分厚いそれをパラリと開く。どのページも同じ人物の写真で埋まっている。まだ少女というべき年齢の被写体は東洋人のエクソシストで、名をリナリー・リーという。ある時期に何度も教団から脱走を試みた、黒の教団現室長の妹である。
レニーの口から肺の空気をすべて吐き出すようなため息がもれた。
「バク……アンタ、また…………」
「違う! これは盗撮じゃない、犯罪じゃないぞ」
「前にコムイに全部のネガを焼き捨てられたんじゃなかったの?」
「……バックアップを取るのは情報処理の基本だ……」
「ウォン、ゴーレム貸してちょうだい。室長に連絡とるから」
「やめろ、ウォン! とりあえず、茶だ、あと茶菓子! こいつは見た目こんなだがマシュマロだとかカステラだとか、甘くて安い、お手軽なのが好きで」
「安くて悪かったわねえ~? ウォン、やっぱコムイ室長」
「いーや~!! ウォン、いいから茶菓子だ。何ならバーボンも一緒に持って来い。太るのが目に見えてるのに、酒と甘いものを一緒に食うのがこいつの」
「よっぽど告げ口されたいようね」
「ウォン!」
いつも通りのやりとりに、辛辣な言葉を吐きながらもレニーの頬が思わず緩む。気遣わしげに主と客人の応酬を見守っていたウォンは、それを確認して大げさに頭を下げた。
「おお、これは何のお構いもせず失礼しました。少々お待ちください、すぐにお茶の用意をしてまいります」
言いおいて、慌ただしく病室を出ていく。忠実な部下兼お守り役の老人の背中を見送ってから、レニーは改めてバクへと向き直った。バクも居住まいを正す。こう見えて空気を読む男なのだ。
「タップやスカルにされた科学班のことは……もう聞いたみたいね」
「ああ。彼は北米支部、オマエの所の出身だったな。大丈夫か?」
「一緒に居た期間は短いのよ。私が北米支部へとばされて一年しないうちに、彼は本部へ昇格したから」
「そうか。そういえば、あいつはコムイの子飼いだったか」
「むしろコムイとあわせてリーバーの子飼い、なんじゃない?」
二人は顔を見合わせ、同時に噴きだした。
「その通りだ!」
空気が和らぐ。不思議なものだ。あれだけの死者を自陣から出しながら、まだ自分たちは笑っている。
「リーバーの方がコムイより少しだけ本部では先輩なのよね」
「ああ。おまけにコムイは昔からアレだからな。いや、昔の方が今より少しはマシだったか」
「最初にコムイの室長就任を知ったときは驚いたわあ。とうとう教団の人材も尽きたのかって」
「まったくだ。アイツよりはオレ様の方が適任と思って何度も抗議したのに、取り合ってもらえないし」
「そりゃ当然でしょ。アンタ、アジア支部(あそこ)から離れられると思ってんの」
「アジア支部を本部にするから問題ない」
「はあ?」
レニーは耳を疑った。対するバクは自明の理だと言わんばかりの口調。
「人口を考えろ。AKUMAの元である人間の数は中国だけで五億、東南アジアやインドを含めればそれ以上。ヨーロッパは大陸全部を合わせてようやっと中国をわずかに上回るくらいだ。であれば、人口に比例すると予想されるAKUMAの数はアジアの方が多くなる。こっちをメインにするのが当然だろう。
だというのに植民地だか何だかの意識が抜けないせいで、見ろ、気が付けば日本はAKUMAの巣窟だ」
「そう言って、日本の状況を見逃してた責任逃れをしたいわけね、アンタは」
「責任逃れじゃない! あの国は二百年前から鎖国してて、情報収集が難しかったんだ。オレ様が支部長になってから式神やらを使うようになったおかげで、クロスへの情報提供だって……あ……」
バクが慌てて横を向く。レニーは呆れた。口を滑らすにも程がある。
「アンタ、クロスの居場所、知ってたのね?」
「……情報は欲しいが本部に知られたらマズイと。実際、本部の情報は伯爵側に筒抜けだったわけで」
「それ、私以外に言ってないでしょうね。正誤はともかく、下手すりゃ罰則ものだって自覚ある?」
「当たり前だ! こんなこと、オマエ以外に喋れるか」
「本当に? 昔からツメが甘いというか」
「オマエこそ、最初に会った時からオレ様のことをバカにしすぎだ」
「だってアンタ、馬にも乗れないし銃も撃てないし、木登りだって私の方が上手かったし」
言いながらレニーは自嘲する。それがどうしたというのだろう。
当時から魔術の才能を発揮するバクに対する教団の態度は、チャン家の跡取りという以上に特別なものだった。
それが悔しくて自分は科学の知識を磨いた。努力のかいあってセカンド計画における最年少の研究員に選ばれた時は誇らしかった。
プロジェクトの失敗が人生の終わりであると説明された時も彼女の意志は揺るがなかった。それを救いと感じるようになったのは、研究が始まってどれくらい経ってからだったろう。
計画始動時に実感のなかった計画の非道さは、実験対象に長く関わる程に重く肩にのしかかり、視野を狭め、AKUMAに対する憎悪さえ鈍らせた。
それでも、教団から離れるという選択肢は頭に浮かばなかった。だが、計画が終わった後の自分の姿も想像の彼方にあった。もし計画が成功していたとして、セカンドエクソシストを自分の手で永遠にリサイクルし続けるのは悪夢を通りこして地獄だったろう。今ならうっすら予想がつく。
不幸にも計画は失敗した。計画に関わった研究員は全て死んだ。フォーが実験施設を破壊した。全てが終わる筈だった。
だが、レニーの生は終わらなかった。
あれから九年たつ。
体を鍛えた。銃の腕も磨いた。AKUMAの関わる事件が重なり、取り戻した伯爵への憎悪は九年前の比ではない。
それで?
彼女のこれらの力は先日敵襲を受けたとき、何の役にたっただろう。
あの時レニーは、ノアに腹を貫かれたジョニーを担いでバクと一緒に機材の陰へ隠れた。
バクが作った即席のタリスマンをAKUMAへ向けて、ジョニー救出の手助けをした。
彼女ができたのはそれだけ。
今回の襲撃の一番最初から……ノアが正体を現したその場に居合わせたというのに。
今、目の前に座る男があの時襲撃者の作り出した炎の海の中へ落ちていった時も、指一本動かせずにただ見ていただけだ。
口に出せば目の前の男が笑うことなど、簡単に予想できる。レニーは黙って視線を手元に落とした。再びアルバムをめくろうとして、写真を保護するフィルム以外の感触に眉を上げた。探ってつまみあげたものを目の前にかざしてみる。写真だ。
黙り込んだレニーへと目をやったバグは、これを目にして写真へ手をのばしてきた。懐かしそうな声が、彼女の心を騒がせる。
「これはボクが初めて撮ったやつだ」
後編に続きます。
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