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後ろを振り向く勇気が無かっただけ(後)

原作5月も連載ないんですよね……覚悟してたんですけど、ですけど(泣)

それはともかく、いつも拍手ありがとうございます!
毎回とても励まされます。

で、今回で終わるはずのお話……すみません、あともう少しだけ続きます……。
一応これが後編で、最後はえーとエピローグとか終章とか何とかそんな感じで。
話中の時間にすれば、5分程度が何でこんな長く~。(←書いてるのは自分だ)

言い訳ばかりですが、よろしければどうぞ~。

 
 
後ろを振り向く勇気が無かっただけ(後)


咄嗟の判断だった。
イノセンスを探していればよくあることだ。
手を頭上に掲げる。

「伸」

ラビが唱えると同時、川の流れと直角になるよう水平に構えた彼のイノセンスは、地上の物理法則では説明できぬ速さで川岸の両端へ届いている。

「上だ! 手ぇ伸ばせ」

ラビがポルトガル語で怒鳴るより先に、ファインダーたちは沈んでいくボートを蹴っていた。一方、ミランダはホールドアップの体勢でフリーズしている。彼女なりの努力をどう解釈したものか。
とりあえず今回はラビの手が届く場所にいるのだから良しとして、彼女の細い体を肩の上に担ぎ上げ、長く伸びた持ち手部分へと二人分の体を引き上げる。急ごしらえの橋の上で彼が息を吐く傍らでは、三人のファインダーがタリスマンを構えて先ほどのAKUMAを空中に縫い留めていた。
が……。

ザバァッ!

水中から更に二匹、流線型をしたAKUMAが姿を現す。

「やっぱりー!」

ラビは舌打ちする。
本来レベル1程度なら、瞬時に彼の火判で破壊できる。しかし、今、彼のイノセンスは橋の代役を務めている。振り回せる状態ではない。
判断するのに一秒もかからなかっただろう。
ラビはミランダを肩に担いだままファインダーたちの頭上を跳び越し、川面に突き出た枝に引っかかったハンマー部分とは反対方向へと走った。

「も少し持ちこたえてくれさ。足元の柄から手ぇ離すなよ」

捨て台詞を残し、ねじくれた木がもつれ合うようにして立ち並ぶ岸への距離を一気に詰める。背後から聞こえる悲鳴は極力、意識から外す。
ようやくたどり着いた土の上にミランダの体を放り出し、たった今、すべり降りた柄の端を握って一言。

「縮」

次の瞬間、白服をあちこち切り裂かれたファインダー三人がラビの周囲に転がる。生死を確認する間が惜しい。ラビは慣れた動作で自分のイノセンスを振るい、判を押す。

「火判」

炎の柱が凄まじい勢いで水面を走って行く。目の前から消えた獲物を探して目をギョロつかせていた二匹のAKUMAは、火柱の直撃を受けあっという間に燃え尽きた。
が、最初に川から飛び出したAKUMAが一匹残っている。
伸ばした鉄槌が届く寸前、それは水しぶきをあげ川の中へ潜ってしまう。
面倒なことになった。
この川の中にはミランダのイノセンスが沈んでいる可能性がある。
AKUMAだけならイノセンスに近寄る心配はないが、最近ではノアやらブローカーやらの存在が表に出てきている。何のはずみで、ミランダのイノセンスが敵の手に渡るかしれたものでない。

ためらっていると、肩を叩かれた。
振り返った彼に、ファインダーのリーダーであるガレイが穏やかな表情を見せる。

「私たちがここで見張ってます。AKUMAやノアは無理ですが、人間相手なら、まあ大丈夫でしょう」

見れば、他のファインダーたちも白い服に自分の血を滲ませながら、神妙な顔をしてこちらを見つめている。
ラビの決断は早い。

「さっき休んだ広場まで確認し終えたら、すぐここまで戻ってくる。それまで頼む」
「はい」

力強く頷いた彼を暫し見つめてから視線を外して、ミランダへと声をかける。

「ミランダ」

細い体が跳ねるようにして立ち上がった。

「私も、ここに……」

彼女は泣きそうな顔をしていた。かみしめた薄い唇は血が滲んでいる。ラビは黙って首を横に振った。ミランダはそれ以上、何も言わなかった。黙って、ラビの隣に並ぶ。
ファインダーたちがタリスマンを川面に向けて構える横を通るとき、彼女は深々と頭を下げた。その後、ラビたちは振り返らずに元来た方向へと歩き出した。


ボートで三十分かかった道のりを、流れに沿って歩くのは骨が折れた。木が多い上に、蔦が垂れさがって行く手を遮るため見通しも悪い。折り重なった葉は頭上からの光を遮り、雨季に入ったアマゾンの熱帯雨林は、ただ立っているだけで汗が滴る。
苦労してミランダが最後に刻盤(タイムレコード)を確認した広場へ着いた時には、水路を進んだ二倍近くの時間が経っていた。

ミランダとラビは手を繋いだまま周囲を見渡す。彼女の刻盤はどこにもない。
ここに来るまで数十メートルごとにラビの木版で川の流れを変えて川底をさらったが、黒い円盤は見当たらなかった。歩き始めてすぐに南米支部へ通信ゴーレムを使って事情を伝えもしたが、応援が到着するまで数時間は優にかかると返された。とにかく地形が入り組んでいるらしい。

「ラビくん、早くリカルドさんたちの所へ戻った方が……」

切羽詰まったミランダの声を後ろに聞きながら、戻る道々、時間が経つごとに大きくなる違和感にラビの足は重くなる。
ミランダのイノセンスはそれなりに大きい。所有者の普段の言動から、なくなったのは彼女がうっかり落としたから、と早決めしてしまったが、だとしても彼女を含めて五人全員がそれに気づかなかったのはおかしい。
彼女はずっと舟に座り込んでリカルドと話しこんでいた。そりゃもう、ラビがイライラして派手な火柱を障害物排除に使うほどだ。その彼女の肩にかけられたイノセンスが落ちるなら、どう考えても舟底で、川に落ちたというならむしろ人為的な操作が必要だ。

一時間半前、この空き地からボートへ乗り込んだ付近へと隻眼を向ける。
大ぶりの枝が水面に張り出た木が水際に立っていた。違っていて欲しい、という柄にもないラビの願いも虚しく、その根元を細い枝と蔓が覆っている。
ここへ戻ってくる道中よく見た、どこにでもある風景。
意識しなければ、意識した今でも、ごく自然で特別な意味を読み取るのが難しい。

眉根を寄せたラビの視線を追ったミランダが、目を大きく見開いた。

「私の……」

決定的な一言を呟き、彼女が駆け出す。その折れそうな手首をラビがつかまえ、自分のそばへと引き寄せた。

「ラビくん?」

年下の仲間の顔を怪訝そうに見上げ、もどかしそうに彼の手を振り払おうとした彼女の動きが止まる。安堵の息がその口からもれる。

「リカルドさん!」

嬉しそうな声をあげ目を輝かせるミランダと対照的に、ラビは知らず唇を引き結び左手に自分のイノセンスを構えた。
彼らから数メートル先、重なり合う木々の間から、白い服を着たファインダーが現れた。




ラビくんのイノセンスは非常に使い勝手がよいと思います。大雑把なのに器用貧乏っぽいなあとも思います。
何となく、それぞれの適合者の性格に似てる気が~。

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