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触れたくて、でも触れたくなくて

いつも拍手ありがとうございます! 励みにさせて頂いて、お話思いついて書き始めて、途中で止まる、を繰り返しております(ダメじゃん)。

さて、今回は今更ながらのトリックオアトリート。
フライングより後出しの方が恥ずかしいかも(笑)

短いリバミラです。いつも以上に内容がないよう……。
タイトルは「群青三メートル手前」様より。
よろしければ、続きをどうぞ。

 
 
触れたくて、でも触れたくなくて


クスクスと、艶のある笑い声が部屋のそこかしこを漂っているようだ。
彼女を押しのけようと持ち上げた彼の腕は、薄い手のひらが触れた途端に力を失いダラリと垂れさがる。
自分と彼女以外、この部屋には誰もいないのだから声をひそめる必要などない筈が、彼女は男の耳元で小さく囁く。

「ダメですよ、リーバーさん。お菓子がなかったんだから、イタズラされてくれないと」

その吐息にはアルコールの匂いがたっぷりと。
いや、息だけでない。彼女の全身から漂う香は、彼女自身が酒精であると声高に主張するかのよう。
これで何度目だ。勘弁してほしい。
まさか、あの巻き毛室長、おかしな薬をミランダの酒に混ぜてないだろうな。

顔のそこかしこを撫でまわされて、耳に口づけられて、髪をすかれるという”イタズラ”をされながら、リーバーはチラリと上司の顔を思い浮かべる。
とんでもないと必死に胸の前で腕を交差させているヒョロ高い青年の隣で、頼もしい料理長がそれだけはないと頬に手を添えて頷く。たしかに他はともかく、教団内での飲食物への異物混入はジェリーが許しそうもない。

必死の現実逃避で得た心の平穏は、首に受けたちゅっというかわいらしい音にもろく崩れた。頬をくすぐる相手のやわらかい髪がさらに追い打ちをかける。

今宵は泣く子も笑うハロウィーン。「トリックオアトリート」の呪文で全てが許される夜。とはいえ、これはないだろう。

自分の部屋のベッドに座り込み、惚れた女に抱きかかえられるようにして、リーバーはひたすら頭の中で素数を数え続ける。力の強さでいえばリーバーはおろかジョニーでさえ比較にならない彼女の指が触れた腕に、足に、力が入らない。

「リーバーさんにしては珍しいですね、こんな日にお菓子を用意してないなんて」

思い出したように、ミランダが言った。すぐ後に、またくすくすと笑いだす。その細い指はリーバーの髪に埋もれたままだ。

「さっきまで菓子があったんだよ! ティモシーに残らず持ってかれたんだ」

リーバーは反論した。いっそ見えない方が楽かもしれないと、閉じたまぶたに口づけられる。慌てて目を開けると、ミランダの潤んだ瞳の放つまっすぐな視線にぶつかってしまい、今度はフィボナッチ数列を高速で唱える羽目になる。

「お菓子?」

ミランダが首を傾げた。

「ああ、普通のアメだ。山ほど用意してあった。包み紙はオレンジと黒の縞模様で、オレンジ味とイチゴ味。ジェリーが作ってくれたやつで……」
「それは……こんな感じのですか?」
「そうそう、そんな感じの……って、どこにあったんだ?!」
「リーバーさんのまくり上げた白衣の袖の中に……」
「ティモシー、あいつ~! まあいい。ミランダ、トリートだ、菓子だ。これでもう、いらずらは止めだ。オレは自由だ!」

盛大なため息とともに、たまった鬱屈を盛大に吐き出す。ミランダはリーバーから少しだけ距離をとり、突如として現れたアメを手の中で転がしている。
その顔は不満そうだ。
対するリーバーの顔は喜びに輝いている。彼女が離れたことで手足に力が戻り、肩なんか回しちゃったりして。

さて仕事場に戻ろうかと、腰を上げたリーバーを見上げたミランダは、突如としてにーっこりと、そりゃもう見たもの誰もが声を失い動きをとめそうな、見事な笑みを顔に浮かべた。誰もの筆頭であるリーバーが指一本動かせないまま彼女のすることを見守っていると、細い指が包み紙をはがして赤く濡れる唇に押し込むようにしてはさみこんだ。

次に、ミランダは重ねたリーバーの指でもって、彼女の手のひらに今夜の決まり文句を一文字ずつなぞっていく。

t・r・i・c・k・o・r・t・r・e・a・t

やられた。
これでは、リーバーが彼女に菓子をねだることになる。

(ちくしょー、二度とハロウィンなんか祝うもんかー!)

心中、滂沱の涙を流しながら、ヤケのようにリーバーは叫んだ。

「トリートだ、トリート! 菓子だけくれ。いたずらはもうご免だー!」

途端、彼女に拘束されていたリーバーの手が自由を取り戻した。ミランダの手のひらがリーバーの頬を包み込み、整った女の顔がゆっくりと近づいてくる。
唇にヒンヤリとした何かが触れ、リーバーから顔を離したミランダが嬉しそうに笑った。

「ハッピーハロウィーン。これからの一年がリーバーさんにとって良きものとなりますように!」

次いで、首に彼女の腕がからみつき、柔らかな体が押し付けられる。耳元で囁かれたのは、どんないたずらも帳消しにする彼女のとっておきの一言。

「リーバーさん、大好き」

そして。
健やかな寝息がスースーと。意識を失ってもリーバーに抱きついたままなのは、笑うしかない。何が悲しゅうて、いい年した男が好きあってる女の抱き枕にされにゃならんのだ。

「……だから嫌だったんだ……」

この場合、彼のうめき声に涙が混じっていたとして、笑うものはいないだろう。
軽く柔らかな女の体を、それでも優しくベッドに横たえ、というか自分が横になればミランダも同じ姿勢になるわけで。
やましいことはないんだからな、と誰も聞いていないのに声に出してから彼女を抱きしめ、リーバーは急速に強まった睡魔に全てをゆだねた。





リーバー班長、ゴメン! でも書いててとっても楽しかった!
これで、私にもう少し筆力があれば、もっとこう……リーバーさんが更に気の毒になる想像しかできないので、これくらいでいいのかもしれない(笑)

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