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いつも拍手ありがとうございます!
久しぶりにLMTのつもりで書いてたんですが、ラビくん出ない、実物のミランダさんいないというよくわからないものに....!
そうそう、本誌は今月載ってて来月は休載だそうですよ。もうミランダさん出ないからすっかり諦めムード(泣笑)
よろしければ「つづきはこちら」からどうぞ~。
夢棲む墓所
「ほう、面白いのう」
並んで釣り糸を垂れる連れの言葉に、ティキは首を傾げた。
「とうとうボケたか? 今日は魚一匹とれてねーぞ」
その言いように、ワイズリーがあきれて見せる。
「魚がひっかからぬからつまらんとは、オヌシに釣り人の資格はなさそうじゃ。
そうではなく、今ワシが面白いと呟いたのはブックマンの頭の中をのぞいたからじゃよ」
五つ目の賢者は竿を引きあげ、いつの間にか食われていた餌にため息をついた。改めて傍らの餌箱の中身を針に突きさし水面へ投じる。
「頭ん中~? 相変わらず悪趣味だな」
「相変わらずとはどういうことじゃ。プライバシーは守ると言っとろうが。これはデザイアスからの頼まれごとで……まったく、オマエさんは情報収集の重要さをまだ分かっとらんのう」
侮りが相手の声ににじむが、ティキは沈黙を守った。口は災いの元だ。肩をすくめるにとどめる。
が、どうも災いとは自らの言動に関係なく降ってくるもののようだ。ワイズリーは釣竿を地面に置いてから、ポンとその手のひらを打ちあわせる。
「百聞は一見に如かず、オマエもちょいと覗いてみるがよい」
「あぁ? オレは別に」
ティキがあわてて視線をそらそうとした時、相手の額の目が光った。ティキを軽い浮遊感が襲う。
気づけば天まで届きそうな本棚に前後左右を取り囲まれていた。あんぐりと口を開けて首を巡らす。
「これがブックマンのじじいの頭ん中?」
「そうじゃ。珍しいじゃろ? 全ての記憶がここに整然と納められ、しかるべき時にしかるべき記録が取り出せるというわけじゃ」
「いやオレ、一度も人の頭の中のぞいたことないし」
言いながら、すぐそばの本棚から分厚い書を取り出そうとした手がすり抜ける。頭に響くワイズリーの声は残念そうだ。
「……ジョイドの能力を使ってもやはりダメか。
苦労してここを見つけた時にはヤレヤレと安堵したんじゃが。触れるのは本人だけらしい……ワシにさえたやすくいじらせんのはさすがというべきか」
ティキはその場でくるりと回ってみた。視界を埋め尽くす本の塊。よくこれだけ集めたもんだ。背表紙の文字もアルファベットに加え、ミミズがのたくったような一続きのものや丸三角を組み合わせた記号のようなものと様々だ。
物珍しさにティキが並ぶ本から目を離さず歩を進めていると、ワイズリーから問いかけられる。
「ほう、気に入ったか?」
「気に入ったも何もオレは」
「ではジュニアはどうじゃ? こちらは老人より容易そうなんじゃがな」
「おいだからオレはだな」
ティキが言う間もあらばこそ。再びの浮遊感に思わず目を閉じた。感覚が戻りティキが目を開くと周囲の様子が一変している。
床と天井は黒と白が格子状に模様を描き、その天と地の間を黒い柱と白い柱が交互につなぐ。うず高く積まれた膨大な数の本は老ブックマンと同じといえなくもないが、大きな山がそびえ所々なだれている様は、整頓されつくした前者と雲泥の差で、この中から目的の記録を引き出すのは手間がかかりそうだ。
そして、不規則に散らばる黒い柩。
丁度大人一人が入りそうな大きさで、どれも黒い布がかけられている。
試しに一つ二つと数え始めたティキだったが、十を超えたあたりで足を止めた。
ある棺の側面に、蓋が立てかけられ中を覗ける。というか、中身があふれ出している。
真っ先に目についたのは、大きくLと落書きされたマグカップ。次に鱗状のバンタナ、重なるようにしてタオル。隅に小さなウサギの刺しゅう付き。毛羽立った毛布、ぺちゃんこになった枕。二段重ねのベッドに至っては、どんな理屈でこの棺からはみ出しているのか見当もつかない。
「おーい、これのどこが楽だって……?」
ぼやきつつ、棺を回り込んで眺めた蓋に刻まれた『Lavi』の四文字。
目をまたたかせてから口笛を吹いた。
「ガードが甘いねェ、眼帯くん。この棺の中が教団関係の情報、ってわけか」
しゃがみこんで棺にかけたティキの手が止まる。この空間は黒と白で埋め尽くされていた筈だ。それなのに、視界の端を極彩色の何かが過ぎったような気が。
「まさか……お化」
ひきつったティキがふり向いて顔をあげる。と、その目に映ったのは、鮮やかな色に彩られた女だった。赤、緑、黄、青、全ての色を全身に配しながら、そのバランスと長く背を覆う黒絹の髪で全体を上品にまとめあげている。
女は東洋的な美貌に謎めいた微笑を浮かべ、まっすぐこちらを見ながら膝をついた。それからゆるりと立ち上がり、案内すると言うかのように流し目を一つ残してからティキへと背を向けた。小さな頭の周囲に揺れる銀のかんざしの鳴る音が聞こえてきそうだ。
この手の女を知らぬティキではないが、ここまでの極上品は初めてだ。目線一つ、指先一つ、全てが誘い惑わせ問いかける。これぞ高嶺の花、まともな男なら手をのばす気すらおこるまい。
純粋な感嘆の息を吐く彼の視線の先で、黒髪に覆われた華奢な背中は闇に溶けるようにして消えた。
「ワイズリー、今の……」
言いかけて、空気が動く気配にティキは視線を下へ向ける。少女が彼を見上げていた。表情の消えた幼い顔、歳は白い彼を待つイーズと同じくらい。諦めに固められた勿忘草色の瞳の底に、それでも消えない弱い光は大人であれば期待と形容するもの。
(ああいかん。こういうのは苦手だ)
ティキは眉をしかめた。よく見れば、青黒い指痕が紺と白のメイド服の襟元からのぞいている。
この時代、よくある話、なのだろう。だからって一人一人の苦しみが小さくなるわけではない。わざわざほじくり返して見せつけられればいい気はしない。
言葉に詰まるティキから視線を外し、少女は身をひるがえして走って行く。遠ざかる小さな背中を追いかけようとは思えなかった。
頼りない後ろ姿が闇の中にかすんで消えるのを見とどけた後、ティキは身構えた。二度あることは、三度という。お次は何だ。
「?」
が、何も起こらない。何も現れない。
視線をあちこちさ迷わせるが、黒と白の空間が広がるだけ。肩透かしだ。
見下ろせば黒い棺桶。すっかり忘れていた。ティキは自分がここにいる目的を思い出し、しゃがみこんだ。視線が下がり視界が白黒の床へ近づいていく。膝をついてふと横を向くと、女の死体が転がっていた。
「うぉ?!」
油断した。後ずさって死体を凝視する。黒っぽい服を着た地味な女だ。両目は固く閉ざされ、血色の悪い唇の端から細く血が流れていた。もつれたブルネットが肩に広がり、薄い手の甲に大きな傷跡。どこかで見たような気がする。どこでだったか……。
知らないうちに伸ばしていた手が、触れない女の体をすり抜けた。
途端。
『ラビくん、こんなとこで寝ちゃダメよ』『ラビくん、食べながら眠っちゃ……あぁほら』『ラビくん、毛布はここに』『ラビくん』『ラビくん』
「な……?」
慌てて手をひっこめると頭を埋め尽くした声が消えた。静まり返った空間が広がっている。思い返せば、ここへ来てから自分の声しか聞いてない。
「おい、ワイズリー!」
ティキは声を張り上げるが応えはない。静寂が耳に痛いほど。
どういうことだ。ワイズリーは何をしている。そういえば、ここから出るにはどうすればいい。
シガレットを探してズボンのポケットに伸ばした指が、虚しく空を切る。
ティキはたまらず目の前の女へと手を伸ばした。
『ラビくん』『ラビくん、この本なんだけど』『あのね、ラビくん、聞いてくれる?』『ラビくん? どうしたの?』『ラビくん』
大きい声ではない。むしろ控えめで落ち着いた、優しい声だ。
なのに。
「ジョイド! ジョイド! 大丈夫か? ジョイド?!」
頬を叩かれる感覚に、ティキは跳ね起きた。
青い空、緑の草、さざ波がきらめく大きな池。目つきの悪い少年がこちらを覗きこんでくる。
自分が何を見ているのか、どこにいるのか、この時ティキはつかみ損ねた。不信の目で周囲を見回し、何が起きてもすぐ対処できるよう体を丸める。目の前の少年が自分へ向けて伸ばす手を叩き落とそうとしたところで、我に返った。
「ワイズリー、か?」
「それ以外の誰に見える?」
ティキに応じるワイズリーは、あからさまに安堵の表情を浮かべていた。その様子に、一つの確信が胸に浮かぶ。
「……失敗したんだな?」
「人の心の中というのは厄介なものだが、ブックマン一族のそれは輪をかけて難解での。別の人間の記憶から記憶へ直接移ろうとしたのも拙かった。まあ、ワシが無能タイムに入らなかっただけ感謝してもらわんと」
「やっぱり失敗したんじゃねえか。で? どう拙かったんだ?」
「オマエさんとジュニアの記憶を入れ替えるところだったわい」
「おい!」
「まあこうして無事戻れたんじゃ、結果オーライということで、何か収穫はあったかの」
「何が結果オーライだ、二度とゴメンだぜ、こんなのは」
「ということは、何も見つけらなかったようじゃの。まあデザイアスから頼まれたのはワシじゃ、地味にコツコツやるしかないのう」
「……分かってんなら最初からやっとけ。オレを巻き込むな」
うんざりと言い捨てる。と、ティキの頭の中に先ほどの声がよみがえった。浮かんだ疑問は至ってシンプル。
「なあ、記憶の中ってのは音がないのか?」
「? ああ、ブックマン一族の頭の中か。あいつらは特別じゃ。大抵の人間は音つき三次元映像がグルグル繰り返されとる」
「そういうもんか」
「そういうもんじゃ」
そういうものらしい。
では、あの声は何だったのだろう。優しく胸をしめつけた、ジュニアの仮初めの名を呼ぶ女の声。
「……混ざったかの」
「何か言ったか?」
「いや。後でロードに診せた方がよいかもしれん」
小さな声で呟かれた後半のセリフはワイズリーだけにしか聞こえない。
ティキは握りこんでいた釣竿を放り出してから、大きく伸びをした。草地に寝転がると、先ほど頭に響いた女の声が自分の名を囁く。
その心地よさに、ティキは目を閉じた。囁かれた名が、ティキだったのか、ジョイドだったのか、それともラビだったのかはどうでもいいことだ。
傍らではワイズリーが再び釣り糸を水面へ垂らしている。風が草を揺らす音、遠くから聞こえる鳥のさえずり、虫の鳴き声に包まれて、ティキはゆっくりと眠りに落ちていった。
この棺は方舟編のラビvs.ロード戦の表紙のアレのつもりで書いてます。見えなくてもそう思ってください(笑) あの表現は今でも一番か二番くらいに好きv
ただ、今回は書いてて「ビ/リー・ミリガ/ンと23の棺」を思い出しました。読んだことないですけどね。人の頭の中の可視化は、考えるのがとても楽しいんですが、実際は化学物質とか電気信号なのかなあ。ロマンは、ロマンはどこに....!
お話の中に出てきた幻影(?)は、アニタさんとコレットちゃんとミランダさんのつもりです。エリアーデさんやリナリーちゃんも書きたかったんですが、冗長になりそうなのでカット。
この二人なら、スポットライト浴びたようなキラキラ効果付で棺のそばをウロウロしてると思います(笑)
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