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この手をとって

いつも拍手ありがとうございます! 拍手があるたび、顔がゆるみます。

さて今回はマリミラです。
降ってきたとしか言いようのないお話。自動書記っぽい書きだし方は久しぶり。
この前(っていつだ)発売したDグレ小説の中に、図書室で転んだミラさんに気づいたマリさんが助けに向かう場面がありまして、その続きっぽくなってます。前記小説ご存じならより楽しめるかと思われますが、読んだことなくても楽しめるように書けてたらいいなと思います(希望形)。

よろしければどうぞ。

 
 
この手をとって


マリは目指す気配を図書室の片隅に見つけた。本に埋もれて座り込んでいるらしい。途方に暮れているようだ。
自分とその人物以外の気配は感じられない。緊迫した戦況の続く昨今、落ち着いて本を楽しむ雰囲気でないことは確かだ。
いったん足を止めて一呼吸。それから足を速める。これくらいが彼女にとって丁度いい。

「ミランダ?」

いつもできるだけ優しく声をかけているつもりだが、そのたびに彼女の心音は跳ね上がる。フォルツァンド(強いアクセントを付けて)、アレグロ(速く)、デクレッシェンド(だんだん弱く)、アンダンテ(歩く早さ)。彼女の心音は速度も強弱もめまぐるしく変わる。まるでティンパニの協奏曲。

「マリさんでしたか。失礼しました。私、あの、本を読もうと思ってそれで」
「あぁうん、勉強熱心で何よりだ。私も少し調べ物があって、本が落ちる音が聞こえたから」
「あぁあ! すみません、邪魔してしまいましたよね、私もう大丈夫ですからマリさんはご自分の本を探しに」
「邪魔なことはない。私もこの棚に用があるんだ。目あての本を探すついでだ、気にしないでほしい」
「そうなんですか。あの、どういった本を探されてます? もしかしたら私もお手伝いできるかもしれません」

手早く彼女の上に積み重なっていた本を取り除き棚に戻していたマリは言葉につまった。ここにある本は何について書かれているのだったか。

「三位一体説における時の永続性の」

ドイツ語のありがたいところは、外来語だろうがなんだろうが全てつなげてしまえるところかもしれない。二十一世紀日本語のカタカナ表記と通じるものがある。

「アウグスティヌスの原書ならマリさんはご存知ですから、派生か反対派の本ですよね。あ! マリさんが今持ってる本がそれに近いんじゃないですか?」
「ああ、そうかもしれない。うん、確かにそうだ」

障害物が取りのぞかれて身動きできるようになったミランダは、マリが手にしている本へ手をのばした。自分の手の甲に触れたその指の細さと小ささに、マリは改めて驚く。炎に包まれたラボで、自分はこの手に救われたのか。レベル4のAKUMAによって旧教団本部が襲撃されたときが昨日のように思い出される。
思いに沈んでいるマリの耳に、ためらいがちな声が優しく届く。

「もしお気に障ったらすみません。前から不思議だったのですけど、あの、マリさんは目が見えないんですよね? 紙に印刷された字がどうして分かるんですか?」

おずおずと気遣わしげに尋ねてくる。何か聞きたそうなのに言葉をのみこんでいた以前と比べて、いい傾向だとマリは思う。

「ゴーレムが小さな声で読みあげているからな。エクソシストは専用のゴーレムが支給されるだろう? 私のには画像認識機能と単語分析機能が追加されているから活字なら大抵はどうにかなる。難しいのは手書き文字や修飾文字かな。図表なんかはお手上げだ」
「そうなんですか。ありがたいですね」
「うん、ありがたい。点字の本や新聞は少ない。この仕事はどんな情報が後から必要になるか分からないから、情報収集手段はあればあるだけいい」
「す、すみません」
「うん?」

いきなり謝られたマリは首をかしげた。この会話の何かが彼女の豊かな連想力にひっかかってしまったらしい。ミランダは非常に責任感が強く、マリからすれば関連性の見いだせない事柄に対して侘びの言葉を口にすることが多い。

「本を読むのがそんなに大切なことだと知らなくて……私ももっと新聞や戦争に関する本を読まなきゃいけないですよね。すぐに探してみます」

今にも駆けだしていきそうなミランダの肩に手を置く。彼女のこういった早とちりをマリは好ましく感じる。常に自省を心がけ、自分のできることを探しているということだから。

「いや、興味のないものを頭につめこんでもあまり役に立たないだろう。私も色々な記事をゴーレムに読んでもらっているが、よく覚えているのはイタリアで改築されたオペラ劇場やオーストリアのオーケストラに対する批評だし。
 そういえばミランダはここで何の本を探していたんだ?」
「私は……あの何だか空間と時間の連続性に関して昔の偉い人が哲学的な命題にしていたらしくてそれがタイムレコードを理解するのに役にたつとアルさんが教えてくれて、それで」

このあいまいさで本を探し出せるのが彼女の偉いところだろう。一つ一つ丁寧に、本を棚から出しては目を遠し、通しては返しとやっているうちに図書室にある大抵の本を一度は手に取っているというラビの軽口も冗談ではないかもしれない。ミランダの女性にしては少し低目の音楽的な声が耳に快く、マリは黙って相槌を打っていた。
彼女の話が一段落し、再び控えめな声で尋ねられる。

「それじゃ、マリさんは人の顔は見えないんですか? 話してる最中、表情が分からないと大変じゃないですか?」
「そうだな。だが声は他の人間よりよく聞こえるし、心音も補聴器があれば拾える。表情を読むより心理状態は把握できていると思うので心配しなくても大丈夫だ」

少しの間があった。何かを思いつめているような気配が相手から伝わってくる。言葉が足りなかっただろうか。
マリが補う言葉を探していると、空気が動いて自分の左手に小さな手がさわった。と思う間もなく自分以外の丸みを帯びた素肌に押し付けられていた。驚きに思考が止まる。手のひらを通して感じられる肌のなめらかさに、目を回したくなった。

「私だけマリさんの顔が分かるのはずるい気がします」

ずるくない。本当なら、彼女に対して誠実であろうとするなら、早く手をひくべきだ、とどうにか動きはじめた頭が命じる。
しかし、自分よりはるかに弱い力でつかまれた手首に力が入らない。結果としてミランダの手を振り払うことができない。
気がつけば彼女に導かれるまま、その髪に指をすべらせていた。

「髪の色は…明るいのではないだろうか。金髪ではないな、だがブルネットでもない。Orangebraunでもない。Schwarzbraun、Ockerbraun?」
「髪の色が分かるんですか? えっとブラウンはまちがいないですけど、マリさんの言った色だと…どうなんでしょう。昔はもっと暗かったんですが最近少し明るくなりました。きっと性格が明るくなったからだと思います。これも教団の…マリさんのおかげです」

そんな訳はないが、教団に来てよかったとミランダが思えたことが一つでもあるならマリも嬉しい。

「目の色は…さすがにわからないな」

マリは苦笑するがミランダは真剣な口調で答えてくれる。

「髪と同じ色です。光の加減で黒く見えたりとび色に見えたりするどっちつかずだそうで。ラビくんにはとび色って言われました」

あの青年が言ったのならそうだろう。未来のブックマンの言葉は事実を描写するためにある。

「顔の造りは整っているように思えるのだが。失礼だったらすまない」
「失礼なんてそんな。でも、美人じゃないです、十人並みです。昔は目の下のクマがひどくてお化けみたいだって子どもたちにからかわれたくらいですから。その、ご期待にそえずすみません」

肩を落とした気配にマリはゆるんだ口元を引きしめた。

「いや。私のこの目では美人も不美人も特に意味はない。だがそうだな、次に貴女を探すとき、すぐ分かるのはうれし…」

とまで言って唐突に黙りこんだ。相手が怪訝そうに首を傾げるがそれどころではない。我ながら不吉なことを考えたものだ。
常ならば彼女の心音だけで居場所も気持ちも体の状態も彼女以上に分かるのだ。彼女の顔にふれて確かめる必要があるときとは、彼女の心音が聞こえないときだ。
つまり。
頭に浮かんだ情景を慌てて打ち消す。考えるだけで恐ろしい。強く握りこんだ手のひらに爪が食いこんだ。

「マリさん?」

不思議そうに尋ねる声。心音は落ち着いたアンダンテ、呼吸は静かなピアニッシモ。マリの頭に浮かんだ恐ろしい考えに気づくはずなどないと分かっていても、ホッとする。
こんな彼女に手を差しのべるのが、自分だけであればどれだけよいだろう。弟弟子であるチャオジーに指摘されるまでもない。自分の気持ちは自分が一番分かっている。

「さて、では本を片付けようか」

気を取りなおして立ち上がる。思いがけず話し込んでしまった。

「すみません! すっかり私…」
「いや。貴女のことが見えるようで楽しかった。私のほうこそこんな所に座り込ませてすまなかった。寒くないか?」
「そんなこと」
「それならよかった」
「あの、本の片づけを手伝ってくださってありがとうございます」
「うん。こういうときはお互い様だ。私が散らかしたときはよろしく頼む」
「はい、それはもう!」

見たことのないはずの彼女の顔が、マリの頭の中花開くようににこりと微笑む。つられるようにしてマリの顔も優しく穏やかに笑み崩れていく。

マリは最近よく考える。自分のできることは少なくミランダのなすべきことは多い。多い分だけ必要とする助けもまた多いだろう....彼女にその自覚があるかどうかは別として。であれば、自分以外の者が自分と同じように彼女へと手を差し出し彼女がそれを取るのを妨げるのは許されまい。

だが、全てが終わった後に望みをつなぐことは許される筈だ。
その時こそ、手を差しだしてこう言おう。

「これから先、どうかこの手だけをとってくれないだろうか」




マリさんというとレベル4襲撃事件後の「強くなるのを神が望まれている」というセリフが印象に残ってます。あれこれ、以前も書いたような。
マリミラは、恋は盲目アバタもえくぼ、ダメな子ほどかわいいが基本アプローチなので、マリさんが原作以上に初々しい....これが初恋といわれても違和感ないかも。

元々はあーでもないこーでもないとラビミラ書いてるときに、浮かんできたお話。私はやはり原作うめる形が書きやすいかなぁ....。

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