[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
残暑お見舞い申し上げます。
....毎日暑いですね、脳みそ溶けちゃいますよね、こんな季節に生まれたラビくんだから、デロデロに甘いお話書いちゃうんでしょうね(責任転嫁)
というわけで、ラビくん誕生日おめでとうSS。誕生月に間に合ってよかった(笑)
オレンジ兎とワルツ 4
パラと空気を含んだ紙が鳴る音に、ミランダは顔を上げた。
シンと静まり返った部屋の中、ベッドの上に座りこんだ赤い髪の青年が一定の間隔で分厚い本のページをめくっている。まるで小さな子どもがお気に入りの絵本を飽きず眺めているようだ。
これで本の内容全てが初見で頭に入っていると言うのだから、うらやましい。
羨望のため息をついた後、自分に課された資料に目を戻すと字がかすんだ。はてと首を傾げて窓の外へ視線をやれば、赤く膨れた太陽が遠い町並みに沈んでいくところ。
時刻は黄昏、逢魔が時。そろそろ灯りを点けなければ。
読書に夢中の青年を邪魔しないよう静かに傍らの机の引き出しからマッチ箱を取り出す。
窓のカーテンを閉めて窓枠に取りつけられたガスランプに火を点けるとぼやけていた部屋の輪郭が一瞬で明瞭になった。思っていた以上に部屋の中は暗くなっていたようだ。
視線をめぐらせ、青年が寝ころがるベッドの隣に置いたサイドテーブルの上のランプに気づく。これも点けた方がよいだろうか。
迷いつつもそちらへ近づき、部屋の明るさの変化に気づいていないらしい青年へ感心する。あんなに暗くても本を読むのに支障がないとは。
案外ブックマンの資格というのは、暗闇でも文字を読めることだったりして。
頭に浮かんだありえそうもない自分の思いつきにクスリと笑ってガスランプに火をつけた。
と。
「ミーランダっ!」
明るい声と一緒に青年の長い腕がミランダの腰に巻きついた。
小さな悲鳴を上げて彼女が落としかけた燃えさしのマッチを素早く受け止めた青年は、ごく自然にマッチ箱と一緒に片付ける。
ほぅと安堵のため息をついたミランダだったが、すぐに別の心配が心をしめつけた。
「うるさかった? ごめんなさいね」
しかしこれは杞憂だったようで、問われた青年は屈託なく首を振ってみせた。
「ん~ん。丁度、本に一段落着いたらミランダがすぐ側にいたから」
ニコニコと笑う彼に悪気はないのだろう。それは確かだ。
けれどもミランダは眉を寄せる。彼のこれからを思えば当然の反応だ。
「ラビくん。アナタが人懐こいのを私は知ってるからいいけど....いえ本当は知っててもよくないんだけど....親しい人が側に居るからってこんなにホイホイ抱きついたり抱きしめたりしちゃダメよ? 特に相手が女の人なら余計」
ところが何が意外だったか、ミランダがこう言うや相手は緑の片目をパチパチと瞬かせた。
「どしたん? 突然」
「突然じゃないの、ずっと注意しなきゃと思ってたの」
「んじゃ、どういうときなら抱きついていいん?」
「いやだから、抱きついちゃダメなんだってば」
賢く察しのよいはずの相手の聞き分けのない様子にミランダはますます自分の思いを強くする。
すなわち、今の彼には母親のような存在が必要なのだ、と。
以前、ミランダの趣味が自己分析と知った科学班の一人が貸してくれた心理学の本にも書いてあった。人が人として成長するには父親と母親が必要だ、これは生物学的な親ではなく父性と母性という云々かんぬん....と。(専門用語オンパレードなその本の中身でミランダに理解できた数少ない箇所がここだったというのが正しい)
彼は小さな頃から戦場を渡り歩いてきたという。その間、老ブックマンが一緒に居て最低限の常識などは身につけたということだが、女性であるミランダに二段ベッドの下じゃない所で寝たいからベッドを貸してほしいなどと頼むあたり、その常識が誰にどこまで通じるかは疑わしい。
ブックマンは立派な人だが、立派過ぎる分こんな簡単な常識など教えなくても分かっとけ、なんて考えそうだ。それはよくない。こういう簡単な常識を小さい頃から折に触れ教えてくれるのが母親というものなのに。
そのことをラビも無意識のうちに感じているのだろう、だからミランダからみても些細なところで変に依怙地になって非常識な頼みごとなどしてみせているのだ。きっと構ってほしいのだろう。小さな子どもの頃にできなかったことを、腰を落ち着けられた今、取り戻そうとしているのだ。
幸いミランダは彼より七つも年上だ。おかしな噂話の相手と見られる恐れはない。(とミランダは確信する。こんな言わずもがなのことにすら気を回すのが女親というものだと自嘲をこめて)
医務室の婦長や料理長のジェリーですら埋められなかった彼の寂しさを自分がどうこうできるとは思えないが、彼女たちよりラビと接する時間は多い。(とミランダは判断した)
どこまで出来るか心許ないが、若いラビがこれから生きていくのに平時の常識を教えてあげられたら、自分が彼と出会えた意味もあるというもの。(とミランダは密かに喜ぶ)
かくて、本日もミランダ考えるところのラビの非常識さを指摘し矯正する時間となるわけだが、さて、それには教えを受ける青年の実際の非常識な行動がくりかえされる必要があるわけだ。ラビにとっては好都合なことに。
もちろん、未来のブックマンとなる青年が、この幸運を無駄にするほどの禁欲主義者でないことは言うまでもなく、そんな青年に見当違いの善意を注いだ女性がどうなるかは大抵の人間に予想がつきそうなことだ。
そんなこんなで、黒の教団に所属する人間が、オレンジ髪の隻眼青年と黒髪巻き毛の女性の仲睦まじい日常生活を目にするまでは、あとわずか。
これ実は7月に書き上げる予定だったといって信じてもらえるものでしょうかね....。
相変わらずインターネットへの接続が不安定でどうしよう。これを機会にケーブル回線に移っちゃおうかな~。
| ≪ 相互リンクのご報告 | | HOME | | 暑中お見舞い申し上げます ≫ |