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リバさんミラさん、ちょっと面倒な小話。
「ドードー....」は~、あうぅ、頑張る予定はありま、す....よ。
タイトルは例によって群青三メートル手前さんの「聖書十題」より。これの副タイトルは「犠牲と救済と世界」。何てDグレのためにあるようなお題! このお題シリーズはリーバー班長とコムイ室長が合ってる気がするなー。
信じてついてゆくと決めた
ミランダは自分が探している人物を彼女にしては珍しく簡単に見つけることができた。
天井まで埋め尽くす本棚に四方を囲まれた図書室の奥の奥、あまり人目につかないその場所で、最近よく顔を合わるようになったのは黒の教団科学班第一班の長、リーバー・ウェンハイム。
よく日にさらした麦わらを思わせる髪の色、理知的な光を湛えた瞳の色は明るい。ヨレヨレの白衣は意外と清潔で、目につく汚れはいくら洗濯しても落ちない類のもの。
垂れた目は優しく見えるが、いざ仕事となると傍のミランダが問答無用で謝りたくなるほど厳しく鋭くなる。それを知ってか、この人がミランダにそんな視線を向けたのは初めて会った時を含めて数えるほど。
甘やかされているのだという自覚だけは忘れないでいようと思う。
そう、忘れてはいない。けれど今、こんなことを聞ける相手として思い当たるのはこの人だけなのだ。
図書室のこの場所に来れるのは少し時間に余裕がある時だと、以前恐縮しきりのミランダをリーバーはなだめてくれた。今ここにいるということは、きっと仕事が一段落したのだろう。ミランダの休日とタイミングが合ってよかった。
何かを探すようにこちらに向けられた男の目線とミランダのそれがぶつかった。リーバーの垂れた目が笑みの形に細まる。いつものようにミランダの胸がほんわりとした温もりに満たされ、知らないうちに速足となっていた。
彼の白衣に染み込んだ薬の匂いが鼻をつくほど近くまで寄り、挨拶もそこそこ本題を切り出す。彼は忙しい人だ。無駄に時間を使わせては申し訳ない。
「あの、リーバーさん....軍事関係の勉強はどなたが専門なんでしょう」
聞いた途端、眠気に霞がかっていたリーバーの目が、驚きと何か恐しいものに満たされ丸くなった。何か失礼があっただろうかと謝る間もなく、気がつけばごく近くにリーバーの顔がある。両肩に食い込んだ彼の指が痛い。
「どういう意味でか聞いてもいいな?」
ミランダを質す口調は重く暗い。これまで簡単な数学や化学、聖書の原本とされているものについて教えてもらった時とは大違い。慌てて謝ろうとした機先を封じられる。
「怒ってるんじゃない。謝らなくていい。何で軍事関係の勉強がしたい? そもそも、軍事関係ってのは何を指してる?」
謝ることを禁じられたミランダは羽を切られた鳥も同じ。突然の成り行きに目を白黒させ、逃げ出したくなる足を必死で押しとどめ、畳み掛けるような質問にしどろもどろの口調で答えようとする。
「あのその、戦略とか戦術、とか、兵法? 孫子やナポレオン、と仰る方の本がいいってラビ君が....あぁいえ、直接聞いたんじゃないです、ブックマンに聞いたら笑われてしまって、その時彼がチラっと口にして。いえ私が勝手に盗み聞きしたも同じで。あぁあ、ラビ君を怒らないでくださいリーバーさん、すみません、私、そんな簡単に修められるなんて思ってません。だから本当に....」
暗に謝るなと念を押されたことには気づいていた。けれど、ミランダが喋れば喋るほどリーバーの目つきが険しくなりラビの名が出た途端に物騒な言葉を呟かれては、自分のせいで自分以外の者(=ラビ)に迷惑をかけてしまうことは明らかだ。彼女の性格からいって謝らずにいられようか。(反語)
一生懸命自分が何故そんな勉強をしようと思ったのか、理由を付け足していく。
「私、今たくさん本を読んでるんです。その中のお話で戦争に参加する登場人物が出てくるんですけどね、でも、その人がよかれと思ってやることが全部裏目に出るんです。戦争の基本もやり方も知らないから。補給とか諜報とか損切りとか分からなくて、無駄に自分で何でもやろうとして頑張ろうとして敵味方の被害を余計に大きくしてしまうんです。そういうお話ばかりなんです。
それで、これまでの私はもしかしてこの人たちと同じなんじゃないかって思ったら、そしたら勉強しないといけないって....リーバーさん? どうしました?」
リーバーの手がミランダの肩から離れた。と思ったら、尋ね人は傍らの椅子に勢いよく腰を下ろしていた。額に手をあてミランダを見上げてくる彼の目尻が少しだけ弛んだ気がする。それが嬉しくて、彼女は強張っていた肩から力を抜いた。相対する相手が口を開くまでは。
「何だ、そんなことか....何の小説か知らないけどな、そんなの本当の戦争を知らない奴が書いた子供だましの作りものだ。大丈夫、ミランダは役に立ってくれてるよ。そんなに心配ならアンタが来る前と後とを比較した教団側の致死傷率のグラフ持ってくる。全然違うのにビックリするかも....」
「違います!」
違う、そんなことが言いたいのではない。思わず鋭い声をあげてしまったミランダと対照的に、リーバーは鳩が豆鉄砲を食らったよう。
「違います、リーバーさん。私、このままじゃ任務中の全部を一緒だった人に押しつけてしまいます」
「そんなことないだろ? いつだって反省してるし少しずつ進歩して....」
まただ。この人はいつもミランダを宥め気分を軽くしようとしてくれる。
でも彼女の望みはそんなことではない。何てもどかしい。胸の前で祈るように指を組み合わせ、ヒタと目線を相手へ据える。
最近チャオジーやティモシーが加わったが、それまでミランダはエクソシストの中で一番経験の浅い新兵だった。イノセンスに攻撃能力がないこともあり、常に守られてきた。
周囲がミランダを守り、自分の能力が周囲を守る。
一見公平なこの状態が、江戸へと向かう船上で船員から一方的に守られた時と同じ、ミランダにとってのみ都合の良いものであることは明らかだ。
だって、ミランダは今生きているけれど、彼女を守ったサポーターやファインダーは今ここにいない。ある者は海の底に、ある者は遺体を焼かれて教団の寂しげな共同墓地に葬られている。
「結果だけ見りゃそうかもしれないが....」
「結果が全てなんです」
尚も言葉を続けようとするリーバーをミランダは遮った。慰めてほしいわけではない。自分の目の前でこれ以上誰も死んでほしくないだけだ。そのためなら苦手な勉強だって幾らでもする、何日だって眠らずにいる。
この覚悟をただの独りよがりにしたくない。
悲痛な思いを胸にミランダはリーバーを見遣る。ある意味唐突な決意表明をされたリーバーは、座り込んだ椅子の肘掛を指で二、三度叩いた。ため息のように小さく息を吐き出され、やっぱり自分なんかこんなに賢い人と本気で話をすることなどできないのだと肩を落としかけた時。
「なぁミランダ。このロンドンで毎日どれだけの人間が死んでるか知ってるか?」
思ってもみなかった問いかけに首を傾げた。戦争とこの質問は一体何の関係があるのだろう。訝しさに眉をひそめて、黙って首を横に振った。
「イギリスの仕掛けた戦争で死んだ人間がこの世界にどれだけいるかは?」
これまた首を振るしかない。
こんなことすら知らない人間が戦争だ戦術だ、口にするのもおこがましいということだろうか。
でもミランダの参加している戦争と普通の世界の戦争では、意味も成り立ちも全く違うと思うのだけれど。
疑問が顔に出てしまったようで、頼みの相手から小さく苦笑された。とはいえ、これまでミランダの簡単な質問に答えてくれた時よりリーバーの目つきが鋭い。仕事中ほどではないが。
「関係ないと思うか? 確かに上層部は軍人が自分で考えることを嫌う。言われたことだけやってりゃいいって方針だ。考えるにしても根っこは思考停止で、どうやれば効率的に敵を倒せるかについて現場で判断しろ、かな。だから神田は理想的な軍人ってわけで上からの受けはいい。
ただ、オレは戦争の仕方を学ぶ前に戦争の背景を知っとくべきだって思うから、オレから戦争について何か聞きたいならそこらへんの勉強をしてほしい」
あ、とミランダは喉の奥で小さく叫んだ。
視線の先、唇を引き結んでまっすぐ自分を見つめてくるリーバーはこれまでと全く違って見える。自分と本気で話そうとしてくれている。
「ま、知ったからってオレたちにはどうしようもないことだ。つーか、オレ自身この戦争の意味を知らない。単にイノセンスに興味があってここにきて研究してて、気づいた時には引き返せないとこまで来てた。だからアンタに言ったことは、オレの願望だな。すまん、変なこと突然言い出して」
そんなことはない。ミランダは勢いよく首を振った。
実際彼女が考えていたのは、アレンがいてリナリーがいて自分によくしてくれる人たちのために何かできればいいということだけだった。でも、『戦争』というからには何か理由があって目的がある筈なのだ。リーバーに指摘されるまで気づかなかった己の浅はかさが恥ずかしい。
自分の今いる場所が、意味が、これまでと全く違って感じられる。
「こんなこと言うと軽蔑されるかもしれないけどな、オレはアレンと違ってAKUMAがどうしても不要だとは思ってない」
何てことを。ミランダは震え上がった。
黒の教団(ここ)に来てすぐ、ミランダはAUKMAの成り立ちや千年伯爵についての説明を受けた。今リーバーが口にした意見をどうやったって導き出せないような説明だった筈だ。
しかし、頭のいいこの人がこう言うということはもしかして自分の理解が間違っていたのだろうか。
混乱する彼女の手を、大きな手が宥めるようにたたいてすぐに離れた。
「千年伯爵も....まぁ倒すべきだとは思う、敵だからな。イギリスにとってアフリカ大陸でフランスが敵なように。ドイツにとってハプスブルグが敵なように。でもこの教団がアンタに吹き込んだように、悪いからじゃぁない。悪だってんならこの教団も似たようなことをしてきてる。
敵が非道を働く。だから自分たちもソレよりかは幾らかマシな悪を行なってもいい。どこでもよく使われるロジックだけどな」
抗議の言葉を呑みこんだ。リーバーの瞳がこれまで見たことがないほど暗く深く沈んでいたので。
何が彼をしてここまで言わせるのだろう。
「戦争で人死には必然だ。戦争を選んだ時点で死亡率は前もって計算されてる。ファインダーたちの死亡率は高く設定され、エクソシストは低く設定される。とはいえ、ゼロじゃない。アンタが死ぬ可能性だってあった。でもアンタは今ここに居る。神様がそうサイコロを振ったってことだ。神様を信じてるなら胸張って生きてろ。死んだ連中を悼むのは構わないが、気に病んでアンタが苦しむことをそいつらは望んじゃいないよ」
床へと落としていた視線を跳ね上げた。リーバーの目の光が和らいでいた。
最後の最後で誤魔化された。慰められた。
慌てるミランダをよそに、賢い科学班長は座っていた椅子から立ち上がった。向けられた背中。手が届かない。
けれど。
「リーバーさん!」
名前を呼んでいた。名前の持ち主が振り返った。いつもと同じ穏やかな瞳がミランダを見下ろしてくる。
「リーバーさん、黒の教団が悪いことをしてるなら、その罪は私も背負うべきものです。リナリーちゃんが言ってくれました、江戸に向かう船の中で、私が....私がサポーターの人たちの時間を戻す時、皆で背負うから、だから一人で苦しまないでって。
だったら、私たちを支えるために科学班の人たちが、アナタがしてきたことも私に背負わせてください。黙って戦えというなら戦います。それでリーバーさんが助かるなら、死なないですむなら。
でもそうじゃないのでしょう? 知らないままではアナタは独りで苦しむ、そんなの私は嫌です。お願いです、私、一生懸命勉強します、色々調べます、だから教えてください、アナタが知ってること、苦しんでいること....この戦争の意味を」
伝わるだろうか。自分の言いたいことが、この聡明さ故に苦しんでいる人に伝わるだろうか。
必死に言い募るミランダと視線を合わせたリーバーが眉を寄せて微笑んだ。この人は泣かない人だと、彼の微笑を見上げてミランダは何故か思った。
「オレも同じ、知らないんだ。自分で言い出しときながら悪いな」
宥めるようにミランダの頭に一度だけ手を置いて、リーバーは再び歩き始めた。
遠ざかる広い背中を見送りながらこみ上げてくる涙を必死にこらえる。自分でも正体のつかめない怒りと悲しみで頭はグチャグチャだ。
わずかな会話によってミランダの世界はひどく複雑なものになってしまった。そんな曖昧な世界の中、揺るがないものがただ一つ。
だから。
ミランダはこの人を信じてついていこうと決めたのだった。
班長がエヴァの加持さんになってる(笑)
ダメ師匠の『戦争の裏』という言葉がやけに気になってしまってこんなお話に。
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