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あなたをもらっていいですか

まさか本当に背筋を電流が走ることがあろうとは。
30年間生きてきて、初めてその瞬間を迎えたコムイはただ目を見開いて固まるばかり。

対するミランダはコムイの指から唇を離して、いつの間にか取り出したハンカチを彼の指に押し当てる。紙で指の先を少し切っただけなのだから、ここまでする必要はない。頭では理解しつつ何だか嬉しそうな目の前の女性の様子に正論を口にできない。
花びらのような唇をほころばせ目元を和ませ、ミランダは口元に人指し指を一本たてて内緒話をするように小さな声を出す。

「コムイさん、婦長さんに怒られちゃいますから内緒ですよ」

内緒? どうして?

発声機能を忘れてしまった喉から言葉が出なかったにも関わらず、ミランダはコムイの言いたいことを察したらしい。
バツが悪そうにそっと目を反らし、肩をすぼめる。

「口の中は意外と不衛生なんだそうです。だから傷口を舐めちゃいけないって....あ!でも私、お昼ご飯食べた後はちゃんと歯磨きしましたし、さっき飲んだ紅茶も砂糖やミルク入れてないからその、そんなに変なことにはならないと、いえでも....」

いつもの通り一人でグルグルし始める彼女を前にして、コムイはようやっと普段の調子を取り戻した。
押し付けられたハンカチをもう片方の手で押さえながら頷く。

「あぁうん、分かってる、ミランダの口の中は気持ちよかったよ。そうじゃなくって....う~ん、ここどこだか分かってる?」
「えーとコムイさんの執務室ですよね」
「周りに誰がいるか気づいてる?」
「いつもどおりにフェイさんとリーバーさんと科学班の皆さんが」
「うん、分かってるならいいんだ」

相槌を打ちながらコムイは首を傾げる。本当に彼女は分かってるのだろうか。仮にも成人女性が大の男の指を舐めるという行為の意味を。こんな場面を目にしたリーバーはともかく、他の科学班員がさっきから動きを止めている原因が自分の行為にあるということを。
こんな状況で自分の行為が内緒に出来ると信じられる根拠はどこにあるのだろう。

「ところでミランダ。こういうことを他の人にしたことはある?」
「こういうことって、傷の手当をすることですか? それがあんまり....皆さん私といるととても気を遣ってしまうようで....手当てをしてもらうばかりなんです」

ミランダは眉を八の字にして申し訳なさそうに視線と肩を落とす。
それでようやく彼女の先程からの嬉しそうな態度に納得がいった。なるほど、いつも面倒を見られてばかりだから他人の面倒を見る側に立てたのが嬉しかったということか。

いやぁよかった、変なスイッチを自分が入れてしまったかと、コレが元で特殊な嗜好に目覚めてしまったらどうしようかと心配していたのだ。

「そうか、それは良かった」

コムイが思わず漏らした言葉を聞いてミランダは不思議そうだ。
コムイ自身も不思議だった。何が良かったのか。さっき背中を走った電流は何だったのか。
分からないことがあれば考えるのがコムイで、考えると同時に答えが出るのもいつものことだ。

が、今回ばかりは突き止めた答えに目を見張ってしまった。まさかと疑い答えを補強する過去の実例をいくつも思い出しやはりと納得する。天才の思考回路ほど傍迷惑なものはないとは誰から言われたのだったか。
とはいえ何度そうぼやかれようと、自分を天才だと思ったことなどコムイは一度もなかったけれど。

「時にミランダ。自分の行動に責任を持つのが大人だとボクは思うんだけどね、君はどう思う?」
「はい、それはもう、大人なら自分の行動に責任を持つのが当然だと思います」

思い入れたっぷり自信は少し、遠い目をしてミランダは頷く。さすが自分の失敗の責任を取って百数回の失業を経験した人間、説得力がある。

「そうか、それは良かった」

コムイは先程と同じセリフを繰り返した。コムイとの付き合いが長いリーバーは何かを感づいたらしい、上司と同僚のやりとりを聞いているだけだったのが訝しげな視線をこちらに向けてきた。

長年の部下の視線を感じながら、コムイはニッコリとミランダに笑いかけた。

「それじゃぁミランダ。責任とってもらえるかな」
「何か....あぁいえはい、喜んで。でも何の....?」

事情を呑み込めていない、人の面倒を見るのが好きな女性に最終通告を突きつける。

「ボク、君じゃないと感じない体だってこと、今ようやっと理解させてもらったんだ。公式な身分はとりあえずどうでもいいとして、君が面倒を見るのはボクだけにしてくれるかな」
「....はい?」


以上、千年伯爵との戦いが終わってから数ヵ月後のコムイとミランダの遣り取りで、この後どうなったかは言わずもがな。
こんなこともあったよねと、関係者一同が懐かしく思い出すまでにはまだ数年の月日を必要とする。






久しぶりすぎて書き方がおかしい。せっかくのコムイさんとミランダさんのお話なのに!

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