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天網恢々、疎にしてもらさず

リバさんミラさん小話。
よろしければどうぞ。(ドードー忘れてるわけじゃないです、よ....)

 
 
天網恢々、疎にしてもらさず


まだ上着の欠かせない気温のロンドンを、リーバーはゆっくりと歩いていく。薄い雲越しの太陽に照らされて、リーバーの足元には淡い影法師が二つ。自分の影に寄り添う細い影に、彼の口元に笑みが浮かぶ。

「お天気よくなってよかったですね」
「あぁ」

細い影の主が少し低目の落ち着いた声で話しかけてくる。イギリスは一年を通して雨が多い。影ができる今日みたいな日は、天気がいいで正解だろう。

「こんな日はリーバーさんもお日さまの光を浴びなきゃダメです」
「うん。結構気持ちいいもんだな」

連日の残業でもぎ取った半日の休暇。近くの公園まで出かけるのに徒歩を選んだのは正解だった。
時々つまづきそうになる彼女を支えるのに、服ごしとはいえ彼女に触れることができる。

「それにしてもミランダから誘ってくれるのは珍しいよなあ」
「あ! あの、本当にお仕事は大丈夫ですか?」
「平気平気。フェイ女史が来てからあの巻き毛室長おとなしくてさ。オレは自分の仕事に専念できるからはかどってはかどって」
「でも、せっかくだからゆっくり眠ってたかったんじゃありません?」
「大丈夫だって。ミランダじゃないんだから眠かったら自分の部屋で寝てるさ」

リーバーがこう言うからには理由がある。
一ヶ月前のことだ。不眠不休の任務明け、彼女は年下の仲間と約束したとかでロンドンの百貨店に出かけて行った。不眠六日目に突入していたミランダは服を選んでいる最中にぶっ倒れ、慌てた同行者は医者を呼ぶわ教団は貴重なエクソシストの一大事と緊急医療体制を発動するわで、てんやわんやの大騒ぎになった。

「あの時は本当にすみませんでした」

リーバーが何を指してるのかすぐに気づいてミランダは肩を落とす。それを見てとったリーバーは慌てる。
しまった、貴重な彼女と二人きりの時間を。

「いやいやそんなことより、公園まであとどれくらいだ?」
「そうですね、五分くらいだと思います。きれいな公園で、いつかリーバーさんを案内したいと思ってたんです」
「珍しいよな、方向音痴のミランダが自分で公園見つけてキチンと場所を覚えてるなんて。誰かに教わったんならともかく」

ちょっとした思いつきだ。リナリーやアレンと一緒なら、息抜きに訪れても不思議ではない。ミランダ自身が見つけたと言われるよりそちらの方がしっくりくる。
が。

「はい。ジェームズさんに誘われ、て?」

ミランダはニコリと笑ってリーバーを見上げ、そのまま固まった。白い喉が何かを飲み込むように上下する。その後、何かに気づいたように青ざめて、勢いよく頭を何度も下げる。

「すみません、今のは聞かなかったことにしてください!」
「....何で?」
「すみません、私、知らなかったんです、ジェームズさんも何も言わなかったから、話しちゃいけないことだって気づかなくて....いえこれはいいわけです、私の気がきかないのがいけないんです。
 そうですよね、今は大変な状況なんですもの、いくら休憩中だからって呑気に公園を歩いてたりしたらいけないですよね、考えが足りませんでした、すみません。
 でも、でも、ジェームズさんはせっかくロンドンの近くにいるのに教団の中に居るだけなんてもったいないって私を気遣ってくださっただけなんです。だからお願いです、ジェームズさんを怒らないで下さい」

だったら今現在、その公園に向かっているリーバーはどうなるのだ。
というか、ミランダのこの態度は何事だ。
たしかに彼女が自分の知らないうちに知らない場所へ自分の部下と出かけたことは面白くない。が、彼女は自分の部下ではないし(むしろ職位は彼女の方が上だ)、休暇中に誰が何をしようとリーバーには関係ない。

言いきかせるものの、全身から立ちのぼる不穏な空気にミランダは気づいたのだろう。それでジェームズをかばおうとしている。逆効果になるかもしれないとは思いつかないようだ。
そういえば三週間前、件(くだん)の部下は浮かれたように鼻歌を口ずさんでいた。二週間前、ミランダが第一科学班に顔を見せた時も真っ先に声をかけていた。
あんにゃろうめ。
への字になった口を何とか元に戻す。止まっていた足を動かし始めたリーバーを追いかけるようにしてミランダも一緒に歩き出す。もう公園は目の前だ。彼女に誘われて今一緒に居るのは自分なのだ。
どうでもいい昔のことなど気にしてもしょうがない。

「気の回しすぎだって。オレは何とも思ってないし怒ってもいない。せっかく休憩がとれたんだ、ジェームズだって気分転換が必要だ、それがミランダと公園に行くことだったんだろ。逆に礼を言いたいくらいだ。そのおかげで仕事もはかどったみたいだし」
「でも」
「この話はこれでやめ。で? そのバスケットの中身、いつになったら見せてくれるんだ? 喉が乾いたから少しもらえると嬉しかったりするんだが」

笑いかけると、ビックリしたようにこげ茶の瞳が丸くなる。ミランダの白い頬がほんのりと赤く染まる。こげ茶の髪をゆるりと首の後ろで括った女性は俯いて、右手に下げていた小さなバスケットを胸に抱きしめた。

「あ、あの、やっぱり分かっちゃいますよね」
「まぁ、公園とバスケットの組み合わせはな。ジェリーに作ってもらったサンドイッチってとこか」
「はい。やわらかく煮込んだチキンペーストを塗ったのなら大丈夫だろうって。キュウリをはさんでくれたのも一応あるそうです。どれも薄くてカードみたいなサンドイッチを何個か。
 あとリーバーさんが泡のお飲み物が好きだと伺ったので、レモンソーダを一番小さい魔法瓶に詰めてもらって」

さすがジェリー。胃痛で固形物が殆ど喉を通らないリーバーの体調をよく理解している。

「それじゃ、ここら辺でお茶にするか」
「え? ここだと座る椅子がない....あぁ! すみません、敷物は持ってきてなく、て?」
「ほい、どうぞ」

リーバーは小さく折り畳んでいた敷布をポケットから取り出し小川を臨む芝の上に広げてみせた。大人二人が余裕で寝転べる大きさだ。
先にそこに腰を下ろし、驚いた様子で突っ立ったままのミランダの手からバスケットを受け取る。それから敷き布の空きスペースに上着を脱いで重ねて敷いた。
これを見てミランダは慌てた素振り。オロオロと立ち尽くしている。その様を訳が分からないまま眺めていたリーバーだったが、敷き布の外に腰を下ろす形でミランダが膝を曲げるのを見てその理由に思い至った。彼女は他人の服の上に座るという発想がないのだ。

慌てて細い手首を引く。ほんの少しの間、抱き合う形になってしまった。
華奢な体つき、柔らかな触り心地が直接伝わってくる。このまま抱きしめてしまえれば。
強い衝動がリーバーの心に湧き上がる。
しかし。

「これ、どこから出したんですか? 手品もできるんですか、リーバーさんは」
「これは科学班で開発した布でな、こんなに薄くても防水・保温・衝撃吸収機能付き。尻も痛くないだろ?」
「それは、私がリーバーさんの上着に座ってしまってるから....知りませんよ、皺になっちゃいますよ、グチャグチャですよ、こんないい上着が。....やっぱり私、草の上に」

リーバーが誘惑を断ち切って座らせた上着の上。魔法瓶の蓋に飲み物を入れてリーバーへと渡して寄こした後、ミランダは腰を浮かせようとする。
この女性はもう少し人の好意を素直に受け入れる訓練をしたほうがいい。
飲み物を受け取ったのと反対の手で彼女の肩を叩いて押し止める。まだ納得のいかない顔をしているが、知らぬふりでリーバーはバスケットの中からサンドイッチを取り出した。

「いいから座ってろって。ん、このサンドイッチ美味い。ソーダも冷えてる。食い物持ってきたのは当たりだな。ここら辺じゃ大した屋台もないだろうし」
「そうでもないですよ。公園の出口で売ってたフィッシュアンドチップスもおいしかったですし」
「へえ?」

おいしかっ

「前来たとき食べたんだ?」
責める響きはないだろうか。自分の言動の筈だが「ない」と断言できない。
笑い話だ。自分以外の男を気にするときがこようとは、一年前は想像もしなかった。
情けなく眉尻を下げるリーバーと付き合わせたミランダの顔から血の気がみるみるひいていく。
「別に怒らないって。ジェームズと一緒に食べたんだろ?」
「あ、その、あの、でも」

ミランダの言動にひっかかりを覚える。今更ジェームズのことを隠す必要はない。
まさか。
一人、いた。
ここ二週間で、進捗率の著しくよくなったジェームズ以外の科学班員。

「デービスとも、来た?」
薄い肩が大きく跳ねた。わっと泣き伏す。思い付きが確信に変わる。
「すみません! デービスさんは『日光を浴びないと健康に悪い』って私の健康を慮って下さっただけなんです。怒るのはどうか!」
「だから、怒らないって。休憩中に誰とどこ行こうが、あいつらの勝手だし」
我ながら説得力がない。こめかみに青筋を浮かべながら口調だけ穏やかにしたところで、誰も言葉通りに受け取れまい。
意識して忘れていた疲労感がどっと肩に押し寄せる。何をしているんだ自分は。こんなにミランダを恐がらせて。
びくびくとリーバーを伺う儚げな女性に伸ばしかけた手を握りこんだ。

「じゃぁ悪いけど少し眠らせてくれるか? 」
「はい? あ、上着、を....!」

ゴロリと横になって、ミランダの膝の上に頭をのせた。
連日の徹夜に近い睡眠時間のせいだ、さっきから感情の起伏がおかしい。彼女の人のよさにつけこむようで良心が痛むが、少しだけ甘えさせてほしい。

「だ、ダメです、リーバーさん、こんなことしたら鶏がらみたいな骨があたって痛くなっちゃいます、大事な頭が! それに私みたいに貧弱な体つきじゃ気持ちよくないです! 上着をお返ししますから、クシャクシャですけど、私の膝よりはよっぽど柔らかいと」

むくりと体を起こす。聞き捨てならない。

「誰がそんなバカなこと言った? つーか、そんなの普通に喋ってるだけなら思いつかないだろ? まさか、膝枕も誰か他の奴にしたことあるとかじゃ....」
ないだろうな。
語尾を呑みこんだリーバーをどう解釈したものか。ミランダはしばしの間を空けて口を開いた。

「黒の教団(ここ)に来る前の戦闘でアレンくんにしたことがあるんですけど....」

そういわれてみれば、そんな報告書を読んだことがあったか。だが戦闘中なら仕方ない。
しかし、だとするとさっきの言葉をミランダに告げたのは。

「アレンくんが....」
「あいつが?」

意外だ。男はともかく、女性に対してはひたすら紳士然とした態度で接する少年があんな風に言うとは。

「食堂で私と会うたびに『もっと沢山食べた方がいい』『特に肉を多めに』『たんぱく質以外は脂肪になるだけだから』『そうか、だとしたらやっぱり肉や魚以外も』って」

首を傾げる。この言葉のどこをどう聞けば『鶏がら』『貧弱な』『つまらない』になるのだろう。
とどめのセリフがこれから出てくるのだろうか。

「これって、もっと肉や脂肪を付けたほうがいいってことで、つまり私の体格が貧弱すぎて膝枕したとき骨があたって寝心地が悪かったってことですよね? でもアレンくんは優しいから直接言えなくて、だからこんな風に遠まわしに勧めてくれてるんですよね?!」

目の縁に涙を浮かべながら詰め寄られて、リーバーは気の抜けた笑みを浮かべる。
体からも力が抜けていく。重力に逆らう気になれない。
ポスンと頭を落とした。ミランダの膝の上に。

「リ、リーバーさんっ」
「三十分後に起こしてくれるか?」

胸のポケットから懐中時計を引っ張り出して、ミランダに押し付ける。

「リーバーさん?」

問いかけには無視を決め込む。今眠ったら三時間は目を覚まさない自信がある。きっと彼女は熟睡したリーバーを起こすことより自分の脚が痺れることを選ぶだろう。
その様子を見たら、きっとリーバーは後悔する。くだらないことに腹をたてたものだと。たくさんミランダに謝るだろう。ミランダが気にしていないと言ってくれても気がすまない。
そんなことをしているうちに、今日これまでのあれこれが本当にどうでもよくなってしまう筈だ。なってほしい。

でなければ、十以上年下の少年にまで悋気を抱くなど情けなさ過ぎて。


切実な願いを胸に、リーバーは目をつぶった。眠気はあっという間に彼を包みこむ。やわらかく優しく温かな水のように。
それはまるで。

(さっき抱きしめた、ミランダそのもの)






男の人は人間の女の形をしてくれてるならたぬきが化けたのでも一緒にいてほしい時があるらしい(伝聞形)(笑)
ので、ジェームズさんもデービスさんもミランダさんに特別な下心があったわけでは....と思って書きました。言うまでもなくこの二人、当blogオリジナルの科学班員さんたちです。

インテリ職の人は自分の仕事の話をしたくて仕方なさそうなイメージ(偏見)があるので、人の話をニコニコ聞いてくれそうなミランダさんは結構ありがたい存在なのではなかろうかと。
頭の回転の早い人はそうでない人と話してると苛々しそうなイメージもありますが。(どっち)
リーバーさんは、さてどうでしょう(笑)

にしても、私が書いてるにしては待遇がいいな、リーバーさん。ティキさんやラビくんと比べれば雲泥の差が。
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