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お話初め、去年ティキミラだったので今年はラビミラ。
新年早々めでたさの感じられないお話ですが、当blogの仕様だと思うことにしました(笑)
タイトルは群青三メートル手前さんの沁々三十題より。
どうしようもない大人と爪先立ちの子ども
「ミランダは別の人間になりたいと思ったこと、ない?」
そうラビがミランダに聞いたのは、新年のカウントダウンも始まろうかという夜遅く。年越しの祝いでにぎわう食堂の隅に腰かけたミランダは、傍らに膝をついて見上げてくる年下の仲間を前にして、目をパチクリと瞬かせた。
「別の、人間?」
「ん。名前も変えて、癖も口調も全然違う。能力も違う別の人間。ミランダはさ、失敗ばっかしてたんだろ? そんなとき考えなかった? 全部リセットして、別の場所で別の人間としてやり直せたら、て」
言われた内容に少しひっかかりを覚えたが、真面目な青年の様子に出かかった文句はのどの奥に消える。
ラビは何かをミランダに期待している。
そのこと自体はとても嬉しい。
しかし、これまで周囲の期待を裏切り続けてきたミランダだ、賢い彼の期待に応えることなどできるのだろうか。
恐れつつ、聞かれた質問に答える。
「ないと、思う」
「何で?」
ミランダは面食らった。
何で、て....何でだろう。
『何で自分ばかり』『もう嫌だ』ということは何度も言った。イノセンスがミランダの言葉を叶えてしまうほど、繰り返し。
でも、別の人間になりたいとは思わなかった。運が良くなりたい、失敗しないで誰かの役に立ちたい、それはなりたい自分の姿であって、なりたい自分以外の姿ではなかった。
けれども普通の人は違うのだろうか。
普通の人は、失敗ばかり繰り返したら別の人間になりたいと思うのだろうか。思えないミランダは、だから普通の人のように物事をうまくできないダメ人間だったのだろうか。いや、今も単にイノセンスのおかげでエクソシストになれたけれど、ダメ人間のままなのだろうか。
だとしたら今からでも遅くない、ミランダ以外の人間になりたいと思ったほうがいいのだろうか。
煙の出そうなほど頭を空回りさせているミランダをよそに、問いを重ねるラビの様子はどこかいつもと違う。
「自分が好きだから?」
「う゛ぇあ、た、多分」
「それは物を持てば落っことして、段差があればつまづいて、壁があればぶつかる自分?」
「最近は、そんなにひどくない、と....」
「じゃぁ、ミランダは昔のミランダと違うってことになるさ。本当のミランダは者を持てば落っことして、段差があればつまづいて、壁があればぶつかる人間なんだから」
「人は、成長する生き物だからして」
「成長? 赤ん坊が子どもになって子どもが大人になるみたいに? んじゃその成長って何? オートミールすら食べられなかった乳飲み子が固いリンゴをかじってる時点で別の生き物だろ? 同じものである必要なんてないんと違う?」
「同じ人間じゃないと、家族や友だちが困ってしまって」
「周囲との関係性が同一人物である必要性? なら天涯孤独の人間があちこち放浪してたらその人間は別の場所では別の人間てことさね?」
「その、人は、場所を移動しても、会った人たちのことを覚えてて」
「記憶の連続性が同じ人間である証明? じゃ、ミランダが覚えてることを全部、別の人間が覚えたらそいつがミランダってことになる?」
「う゛、あ、ぅ、ご、ごめ」
「謝らんといて、謝ってほしいんじゃねぇんさ。ミランダ、教えて。ミランダは自分が一ヶ月前のミランダと同じミランダだってどうやって分かる? どうやって他人に証明できる? ミランダを構成する細胞だって2ヶ月たてば全部入れ替わってるのに」
矢継ぎ早に放たれた質問すべてに答えるには、ミランダの頭の回転はゆっくりすぎた。
ただ。
一つだけ感じられたことがある。
ラビは、目の前にひざまずいている男の子は、何かをミランダに望んでいる。それは質問に正しく答えることではないような。(では、何を?)
進退窮まり、ミランダはひとまず考えるのを放棄した。ただ自分が望むとおりに目の前の赤い頭をギュッと抱きしめる。ラビは抵抗しなかった。突然すぎて対応できなかったのかもしれない。
「ら、」
言いかけ口ごもる。多分、今ミランダは彼の名を呼んではいけない。
「ごめんなさい、私やっぱりその、アナタの言うことがよく分かってないと思うんだけど」
抱えこんだ腕の中で、肩が一度だけ上下する。
違う、分かってないから答えられないと言うわけじゃないの、そんな風に脅えないで。
思いをこめて腕の力を強める。
自分はバカだから分からないと言えたらどれだけ楽だろう。けれど彼はそれを許さない。この子はミランダを愚かなままでいさせてくれない。
「ずっと前、江戸に行く船でアナタにしがみついたことがあったでしょう。あの時のことを私は今でも覚えてる。そして今、私はアナタを抱きしめてて....あの時より少し背が高くなったなぁと感じてる私は、江戸に行く船の上でアナタにしがみついた私と同じ人間だと思うし、....大きくなったアナタもあの時のアナタと同じ人間だと、思う」
自分よりも大きな体に回していた腕を伸ばして、相手の頬を手の平で包んだ。腕の長さの分距離をとって覗き込んだラビの顔は、少しだけ青ざめていて恐ろしいほど静かだった。これまで見たことがないくらい、全ての感情をそぎ落とした表情をしていた。
あぁ、ダメだった。とっさにミランダは理解してしまった。ダメだった、また自分は間違えた。
何で、ダメだったことだけ分かってしまうのだろう。この子が必要としていたことは分からなかったのに。
「ラビくん、ごめ、私....!」
目の縁に涙を浮かべ必死に言い連ねようとするミランダの視界が緑色に染まる。ラビがその広い胸に年上の女性を抱きこんだのだ。そういえば、今日この青年は緑色のシャツを着ていた。片方だけのぞく瞳の色と似ていてきれいねと微笑んだのが遠い昔のようだ。今度こそミランダの頭の回転が完全に停止した。
その後いくらもたたないうちに、ミランダはたくましい腕から解放された。慌てて顔を上げる。ラビは、いつもと同じ人懐こい笑顔をその顔に浮かべていた。
「ミランダ、あんがと」
いつもと変わらぬ明るい口調でミランダに告げたのは、読みたいと言っていた本を見つけてあげた時と同じ言葉。
膨らむ不安に胸をしめつけられ、ミランダは思わず彼の袖の端をつかんだ。せめてまとまらない考えを伝えなければと口を開く。
が。
「ラビー!」
食堂の入り口近くにいたアレンがラビを呼んだ。呼ばれた青年はミランダに軽く眉を上げてみせた。ミランダの手が空をきる。ラビはクルリと背を向け、呼ばれた方向へと走って行った。
自分はどうすればよかったのか、どうするべきだったのか。次期ブックマンの期待を裏切ってしまったと泣き出しそうな女性をその場に残して。
翌日、ブックマンと彼の弟子はあわただしく任務で地中海へと出かけていった。
以降、ラビと言葉を交わした者は誰もいない。
休載前、ブックマン師弟の教団からの離脱フラグが立ちまくってたというアチコチのサイトさんの感想を読んで。
ラビくんファンも一時期の神田くんファンと同じ立場になってしまうのかしら~。
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