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あなたは神を信じますか

季節限定・夏花企画さんに提出したキエミラ話。
メール送付した十時間後には展示して下さってましたよ。仕事速!
ありがたやありがたや。
(2008/10/11追加:10/8に夏花企画さんが閉幕されましたので、こちらで再度公開)


アスター(青)
あなたは神を信じますか


その花に最初に目を止めたのはキエだった。ラビとミランダ、二人のエクソシストの手助けをするファインダーとして出かけた北の地で、タリスマンを置いた傍らに青い花が青い空を見上げて咲いていた。
健気な佇まいに何故か心惹かれる。思わず手を伸ばし茎を折った後、ハタと見つめた可憐な花。
いい年をした男が何をしているのだか。

苦笑し下草の中に捨てようとしたところで、遠慮がちな声がかかる。聞き間違えようがない、少し低めの柔らかな声の持ち主はミランダ・ロットー。
キエが自らの命と引きかえにしても守らなければならないエクソシストの女性である。
筈なのだが今回の戦闘でも彼女の能力に守られてしまった。こういったことが最近多いとファインダー仲間から聞いている。彼らの生存率が劇的に跳ね上がったとも。
とはいえ、ファインダーとなる前はここ北欧の地から遠く離れた中国でサポーターであったキエである。以前の状況は分からない。
聞かされたところで、そうかとしか答えようがないのだけれど。

「キエさん、あの、大丈夫ですか? ケガはありません?」
「おかげさまで。ここら辺のAKUMAはラビさんが片付けてくれたようですね」
「はい」
「ラビさん、前より強くなったんじゃありませんか?」

ミランダが目を細めて誇らしげに頷く。まるで自分が褒められたように。
彼女の美点だろう。自分以外の誰かが良く言われると自分が褒められた時より嬉しそうにする。
つられて頬を弛めたキエをニコニコと見上げていたミランダの視点が止まった。その視線を追って自分の胸元を見下ろすと、手折った花が頭を垂れている。

「あの、それは?」
「あ、あぁ、えぇとこれは花です」

尋ねられてキエはとっさに言わずもがなの答えを返した。ミランダはゆっくりと首を傾げた後で小さく笑った。そりゃそうだ。見れば分かること、何を大真面目な顔で言ってるんだか。
しかし、目の前の女性に自分が手折った花だと告げるのははばかられた。

「草の中に落ちていたんです。気の毒な気がして拾ったんですが・・・」

語尾がモゴモゴと空気に消える。これでは正直に言った方がまだマシだった。赤面する思いで俯いたキエの視界に、ほのかに頬を染めて微笑むミランダが映る。とても嬉しそうだ。

「優しいんですね」
「え、えぇ、あぁいやその」
「それじゃ、私が頂いてもいいですか? 教団に帰ったら一輪挿しの花瓶を探して飾っておきますから。キエさん、きっと花瓶を持ってないでしょう?」
「よくお分かりで。ではお願いします」
「はい、ちゃんと毎日水を換えますから。ありがとうございます」
「いえ、まあ、こちらこそ」

手渡した小さな花を、ミランダは愛おしそうに見つめる。罪悪感がチクチクとキエの心をつつくが、今更本当のことは話せない。
どうせ大したことではない。
言いきかせた彼は、言いきかせるまでもなく大変な事実に気づく。ミランダの肩から彼女のイノセンスである刻盤(タイムレコード)が下がっていない。

「ミランダ! 刻盤(タイムレコード)はどうしたんですか!」
「え? あ。えーとさっき休んでる時に刻盤(タイムレコード)に埃がついてるのに気づいて拭いてあげなきゃと思って・・・」

指摘されてみるみる顔色を失いオロオロし始めたミランダの前を横切り、彼は彼女が先程まで座っていた木の根元へと歩み寄っていた。
草の間にポツンと黒く輝く、円盤の形をした刻盤(タイムレコード)。
ホッと息を吐く。

こんなに大事なものを置き忘れるのだから、やはりこのエクソシスト様は目が離せない。
何度か命を救ってくれた彼女は、非常にそそっかしい。その能力への信頼は揺るぎようがないものの、こういった時キエは少しだけ・・・いやかなり心配になってしまう。
彼が命をかけたとしてミランダを守りきれるのか、助けになれるのかと。

難しい心持ちでキエは刻盤(タイムレコード)を持ち上げようとした。
が、全く動かない。まるで根でも生えたようだ。
首を傾げて、とにかく持ち主を呼ぶ。彼女の方が刻盤(タイムレコード)の扱いには詳しいだろうから。

「ありましたよ、ミランダ・・・」

振り返った彼の体に影が落ちる。
見開いた青い瞳に、彼らを取り囲む樫の木よりも太い腕が華奢な体に振り下ろされるのがスローモーションで映った。
気がつけば何も考えずに地面を蹴っていた。

永遠のような刹那のような時間の後。
キエは地面に背中から叩きつけられる。激痛に束の間息がとまり、遅れて血の味が口の中に広がった。続いてどうにか息を吐き出すが、今度は空気を取り込む術を忘れたように咳き込む音だけが耳に届く。
キエは自分の死を覚悟した。

いや。
日本に向かう船の乗員に名乗りを上げた時も、教団本部でファインダーになることを志願した時も、死は常に彼の目の前にあった。
それでも、そうせずにいられない理由を彼は持っていた。
自分と似た境遇の仲間と酒を飲んでバカ騒ぎをしている時も、一晩の柔らかな温もりを腕に抱えてまどろむ時も頭を離れない、これから先どれだけ生きようと何があろうと消えないAKUMAへの憎悪と痛みが。

だからAKUMAを破壊する唯一の存在であるエクソシストのためこの命を失うなら、心残りなど何もない筈だった。

なのに、今この時を迎えて死にたくないと思うキエがいる。何故だろう。朦朧とする意識で出した答えは一つ、ミランダの無事を願うからだ。
彼ができたのは、彼女とAKUMAの間に飛び込むことだけ。しかも殴り飛ばされた自分の体が、彼女を巻き添えにしている。
衝撃を幾らか軽くできたとしてもあの細い体だ、大して意味がないだろう。加えて、AKUMAのエクソシストに対する激しい憎悪は、それ以外の人間に対する殺人衝動の比ではない。
命の危険はファインダーであるキエより、黒の団服に身を包んだエクソシストであるミランダの方がより切実だ。

白黒反転し輪郭すらまともに捉えられない視界をさ迷わせる。自分以外の人間のか細い呻き声を聞いた気がして、自由のきかない首を左へと捻り声を絞り出す。微かに動く指先が土を掻く。

「ミランダ・・・逃げ・・・・・・」
「ミランダ! キエ!!」

場違いに明るく元気の良い声がその場を圧した。次に空気を震わせたのは天まで届く炎が轟と燃え盛る音。
それはキエのモノクロの視界全てを焼いて、彼と彼女を襲ったAKUMAを一瞬で滅した。

その後、二人のエクソシストたちが二、三言葉を交わしているのを聞いた気がした。気がしたというのは、意識に霞がかかっており聴覚もあやしかったからだ。
気力を振り絞って開けた目に、濡れた大きなダークブラウンの瞳が飛び込んでくる。
慌てて跳ね起きて、痛みが消えているのに気づいた。
これが時間回復(リカバリー)、ミランダのイノセンスの力。
何度か目にしたが、自分がこの能力の対象になったのは初めてだ。感謝の気持ちで見下ろすと、この奇跡をもたらした女性は肩を小刻みに震わせている。

「すみません、すみません、わた、私のせいで・・・私が刻盤(タイムレコード)を忘れたせいで・・・キエさんの身まで・・・!」
「何を言ってるんです! 貴女は今こうして私のケガを治してくれているじゃないですか」

彼女のあまりの言い様に、口調が乱暴になってしまっただろうか。しゃくり上げる彼女を抱き寄せられないのがもどかしい。

「でも、でも、これは仮初の力で! アニタさんたちが海に沈んでしまったように、キエさんの傷も私が発動をとけば元に戻って、それで・・・っ」

その先が続かない。言葉を途切れさせ、涙は途切れることなく流しながらキエの服の裾を掴む。
へ、と思わず間の抜けた声を上げてしまった。
何か、何かこの女性は勘違いをしているのではないだろうか。
そんなキエの気持ちを代弁してくれたのは、この場で一番年若いラビだった。

「あのさ、盛り上がってるトコ悪いんだけど、ミランダ。キエのソレ、致命傷じゃなかったさ」
「・・・え?」
「キエも分かってんだろ? 何ミランダに話合わせてるんさ」
「聞いてたなら分かるでしょう、今のどこで何を話せと。それに男としては美しい女性に泣いて縋られて悪い気はしませんし」
「そりゃ同感だけどさ」
「・・・えぇ?!」

ミランダが悲鳴を上げる。眉尻を僅かに吊り上げ、青白かった頬は赤く染まっている。泣いてるよりは余程いい。
キエは安堵に胸をなで下ろす。
だが、彼の隣で意地悪気に唇を歪めていた青年が急に真面目な顔をして言葉を継いだ。

「でもアバラが何本か折れてる。早いトコ処置したほうが・・・リカバリーで治ってる時間はカウントされてないにしても・・・いいさ」
「ラビさん!」

今言わなくても。厳しい視線を向けての無言の非難に、鮮やかな髪と隻眼の持ち主は肩を竦めた。ミランダは泣きそうな顔をして頷く。今度こそ刻盤(タイムレコード)をしっかりと肩にかけた後で。
キエが服に付いた土を払っていると、彼女の肩にかけられた黒いイノセンスが目に入った。ふと先程を思い出す。

「申し訳ありません、よろしければ貴女のイノセンスを持たせて頂いてもよろしいですか?」
「? えぇ、どうぞ」

差し出された刻盤(タイムレコード)を吊る紐へと手を伸ばす。受け取ると同時、ズシリと手に重みがかかりキエは地面に膝をついた。鉛どころか地面から根が生えているようだ。とても持ち上げるどころではない。

「やはり、このイノセンスは貴女にしか触られたくないようですね」

キエの嘆息にミランダは目を丸くした後、コロコロと喉を鳴らす。

「まさか! 幾ら私でも、もう騙されませんよ」
「いやミランダ、多分キエの言ってんの本当さ。オレも持ち上げられねぇもん、ソレ」

ぼやいた青年の碧の瞳とキエの青い瞳が期せずして見合わされた。エクソシストであるラビにすら持てないとは。
しかし、この形状に加工したのは科学班のメンバーではなかったか。
首をひねるキエをよそに、ミランダは刻盤(タイムレコード)を取り返してたしなめるような口調だ。

「ラビくんまで。はいはい、分かりました。ラビくんもキエさんも、空気より軽いこの刻盤(タイムレコード)を持てないほど弱ってるのね。だったら早く教団に戻らないと! えーと聞こえますか? 今度こそ任務が終わりました、ゲートの解放をお願いします」

最後のセリフは彼らの頭上をクルクルと旋回していた彼女のゴーレムに対するものだ。
本当のことなのに本気にしてもらえそうにない。身から出た錆とはいえ、寂しいことだ。

それにしても、とキエは思考を続ける。
あの時、キエがこのイノセンスを持てたとして、その後の状況が良くなっただろうか。
例えば、ミランダを庇おうと走り寄って殴り飛ばされる瞬間に背後に立ち尽くしている彼女へとこれを放る。それを受け取った彼女は、渡されたと同時にイノセンスを発動する。
無理な気がする。
あの切羽詰った状況で、彼女が放り投げられた物を受け取れるとは思えない。これまでの彼女の行動を振り返って考えるに。
であるなら適合者以外の手に収まる必要はない、とこのイノセンスが判断したとしたら?

そして結局、大ケガを負ったキエはともかくミランダは軽い打撲傷を負ったのみ。この程度なら彼女が日常生活で作る傷の方がよほど重い。
・・・このイノセンスはそこまで見通していたのだろうか。
だとしたらこのイノセンス、相当性格が悪い。

キエが眉間にシワを寄せていると、ミランダが気遣わしげな眼差しでこちらを見上げてくる。心配いらないと言う代わり、できる限りの笑顔を返した。
そして、彼女の手袋に覆われた細い指に自分の贈ったアスターが花びらを落とし茎を短くしながらも、しっかりと掴まれているのに気がつく。
自然、キエの口元が綻んだ。
どうやら彼の贈り物は忘れられなかったらしい。
しょうもない優越感を持つくらい許されるべきだろう。何しろこのイノセンスは命がある限り誰より近く常にミランダの側に居るのだから。


望むなら。
キエはミランダやラビと肩を並べて森の外で待つ馬車へと歩きながら、静かに思う。
自分が死ぬ時は彼女の側がいい。この女性を守り切れたことに満足して。もしくは彼女を守れなかったと、死にたくないと後悔に身を灼きながら。
決して決して、五体満足な傷一つない体で彼女の最期を看取ることだけはないように。

存在を疑うことなどできなくなった神へ、キエは心の底から祈りを捧げた。








2008夏花企画提出 2008/8/31
アスター(青)の花言葉を知った瞬間、「ミランダさんのためにあるような花だ」と思って書いたお話です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
また主催の月白さん、素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました!

以下、アスターの簡単な花言葉をメモ。

ピンク…「甘い夢」
紫  …「恋の勝利」 「私の愛はあなたより深い」
青  …「信頼」 「あなたを信じているけど心配」
白  …「私を信じてください」
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