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覆い、隠し、抱き締める

今回は先週あたりのネタバレ含んだラビミラ甘めと思ったら何だか薄暗い?

タイトルは群青三メートル手前さんの沁々三十題より。こちらのサイトさんのお題は、できるなら全部やりたいくらい好きだ!

 
 
覆い、隠し、抱き締める


足音を立てないのは得意だ。
気配を殺すのだってお手のもの。

とはいえ、そんなことしなくても今のミランダはラビに気づかないに違いない。何しろ、目の前のポットとその隣に置いた砂時計だけを一心不乱に眺めているのだから。
そんなミランダに後ろから抱きつくとどうなるか。

「ぎ、ギャー! おばけ~!! アレン君ー、リナリーちゃんー、ラビ君~」
ガラガラ。
ガチャン、ドカン、バリン。

こうなる。

「あっぶないさ、ミランダ。ダイジョブ?」

引き寄せてポットの中身から細い体を守ったラビは、自分の引き起こした惨状をよそに何食わぬ声で尋ねかけた。
声で自分を驚かせた相手が誰か分かったのだろう、小さく息を吐いてミランダが怒ったような声を出す。

「え、あ、ラビ君? あぁもう、お願いだからふざけるのはもう少し安全な所で....私に安全な所なんてあったかしら....?」

他人に言われる前に自分で首を傾げているのだから世話はない。
小さく笑ってラビは彼女の細い首に鼻先を押し付けた。折れそうな体に回した腕はそのままだ。

「ラビ君? どうしたの?」

ミランダは振り返ろうと身を捩る。
が、ラビが腕を弛めないので出来ないでいる。

「ラビ君、あの、腕の力を抜いてくれないとその」

困ったような声。顔は見るまでもない。眉尻を下げて目を上下左右に動かして、手は胸の前で指を組むようにモジモジと。細い指がラビの腕に触れる感触がしたと思ったら、あっという間に離れてしまう。

「あの、ラビ君、新しいホームを見に行ったんじゃなかったの?」

ミランダが助けを求める相手は一番がアレン、次がリナリー。
ラビはいつだって三番目。

「アレン君とリナリーちゃんにも会ってきたのよね? 元気だった? お別れしてから三日も経ってないのに尋くのも変な話だけど」

ミランダにとっての一番は、きっと死ぬまでアレンなのだろう。何しろ彼女の世界の救世主、彼女の全てを一夜にして変えてしまったヒーローなのだから。
それは恋をしようと変わらない。

「ねぇ、ラビ君、本当にどうしたの? ....それとも、もしかして........ひ、人違いで、あの、あの、ねぇ、ラビ君よね? お願い、ラビ君、何か言ってちょうだい」

華奢な体が小刻みに震え始める。
ラビの腕をどうにか振り解こうとしているようだが、力が弱すぎて話にならない。
今はこれでいいけれど、簡単な護身術くらいは教えてやらないと。ラビ以外の男が(女でも)こんなことをした時に逃げられるように。
考え始めると、自分が側にいない時の彼女が心配でたまらない。
近い将来、この儚い女性の側から自分が永遠に姿を消した後のことを考えると気が狂いそうだ。

とりあえずはと名前を呼ぶ。こんな風に彼女に触れるのがラビ以外にいていい筈がない。
すると。

「ふ....うぇ、ひっく、ラビ君、ごめんなさい、ごめ、あの、私、また何かしちゃったのね、ごめんなさい、ラビ君....ラビ君」

しゃくり上げ始めたミランダを後ろから抱きしめたまま、ラビはようやっと腕の力を弛める。薄い肩に手をかけ振り向かせると、濡れたダークブラウンの瞳と翡翠の瞳がぶつかった。たまらず両手で血の気の引いた白い顔を包み込む。親指で拭った濡れた頬に口付けてから、唇が触れるほど耳の近くで「驚かせてゴメン」と囁いた。


何か言いたそうなミランダを胸の中抱きしめて、ラビは先程までいた黒の教団本部の引越し先での出来事を思い出していた。

この夜が明ければ、アレンがいつか14番目になることをミランダは知る。
その時、彼女はどうするだろう。
まずは驚き、次に狼狽し、でも決してアレンに対する態度を変えないだろう。こっそり「気にしないでね」なんてあの少年に囁くかもしれない。

でも万が一。
恐がって、距離を置いて、ぎこちなく接するようになったら。
ラビは喜ぶだろうか。満足するだろうか。そうなることをラビは少しでも望んでいるだろうか。

望むわけない、そんなこと。むしろ恐れてる。
そんなミランダに、これまで通り接することができると今のラビには断言できないから。
....アレンはラビにとっても彼の世界を変えてしまった特別な存在だから。

ラビとミランダ、白髪の少年に関する限り二人の立場は似ていなくもない。
そのことを少しだけ喜びながら、ミランダの一番が自分でない苛立ちはラビの中にいつもある。
勝手なものだ。
ラビの一番は、アレンですらないくせに。
今の今までそのことを申し訳なく思うことはあっても、疑ったことなどなかったけれど。

耳の奥から雨の音が消えない。
闇に身を溶け込ませて聞いた話が頭を離れない。
次期ブックマンとして知った事実に、師である老人が見せた態度に、自分の足元がグラグラと揺れる。

ブックマン。
世界の枠から外れた者。
私情に囚われず戦争の裏、隠された歴史を記録する存在。
誰より真実を知ることができるモノ。

本当だろうか。
自分が将来目指すモノは、本当に今までラビが考えていたモノなのだろうか。

「ラビ君?」

耳に馴染んだ優しい声、涙に濡れた目で見上げてくる愛しい人。
彼女の隣でこの世界をずっと眺めていられれば。
叶わぬ夢ほど美しい。

「ミランダ、さっきからオレの名前呼んでばっかさ」
「だってラビ君、さっきから何も言わないから私....ねぇ、本当にどうしたの、何かあったの? ブックマンとして知ったことは言えないなら、せめてラビ君の気持ちを....」
「ストップ、ミランダ。頼むさ、それ以上言わんといて」

相手の額に自分の額を重ね合わせ、掠めるようにキスをして。
ラビはもう一度、薄い肩と小さな頭を自分の胸の中に抱き締めた。





ブックマンとして新本拠地へ行ったので、そのことはもしかしたら居残り組には内緒だったかもしれません。

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