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時計職人(見習い)の恋人 7

ティキミラ過去捏造パラレル。時計職人(見習い)の恋人6の続き。
記録的な大雨に見舞われたミラさんとティキさんとの初デート。とりあえず、とミランダさんのお部屋に避難したものの...?

副タイトルは群青三メートル手前さんの「彩日十題」より。
よろしければどうぞ。

 
 
続く道

05. お手上げです、きみには敵いません。 2


自分の裸を見てひっくり返ったミランダを抱きとめ、最近こんなことばかりしてるとティキは一人苦笑する。知り合ってから二ヶ月間、隣を歩く彼女が転びそうになるたび、腕を掴んだり襟を引き寄せたりしてきた。
だから、その軽さと骨の細さなど重々承知しているつもりで、何の気なしに抱き上げた。が、思わずマジマジと腕の中の女を見下ろしてしまう。

驚いた。とんでもなく軽い。本当に人間か。
おまけに華奢だ。ちょっと力を強めただけで、簡単に肋骨の一本や二本、ポキリと折れそうじゃないか。
そして気づく。腕の中の女が整った顔立ちをしていることに。
長いまつ毛が白い頬に影を落としている。いつもきつくひっ詰めた髪を今は緩く編んでるからか、受ける印象も随分と違う。

思いがけない発見に、ベッドへ向かう青年の足取りは軽い。これまでもそうじゃないかと少しばかり期待していたのだが、さっきので確信できた。ミランダはきっと男を知らない。そんな女、ティキはこれまで一人も知らない。
場末の娼婦でも初めての時は値段を吊り上げる。ヘタ、というかコチラが手取り足取り教えにゃならんのに何だって男どもが大金を払いたがるのか、ティキは理解できなかった。そんな金があるなら、慣れた女の所へ二度三度と通う方が楽しいに決まってる。
でも、相手がミランダだったら。ソレくらいの面倒、引き受けてもいいかもしれない。何よりきっと、金など要求しないだろう、彼女は。

シャワーを浴びている間に考えたことなどはるか彼方、何しろ三歩歩けば自分の言動すらキレイサッパリ忘れてしまうのだ。もう十歩だか二十歩だか歩いてる。形の残らぬ思案なら、真夏の雪より早く消えてしまう。気まぐれな男はバスルームの洗面所に放ったびしょ濡れの服に目をやることすらしなかった。
腰にタオルを巻いただけの格好で、細い体を丁寧にベッドに横たえる。台所にとって返して勝手にアチコチ漁り、見つけたブランデーを持って彼女の側へと戻った。
さすがに意識のない女をどうこうする趣味はない。あとはビンの蓋を開け、彼女の鼻先に持っていきさえすればよい。のだが。

「人命救助だ」
ティキはしかつめらしく呟いて、弛む頬を必死に引き締めた。誰が見てもミランダに迫っているのは命の危機でなく貞操の危機だが、幸か不幸かそれを指摘する第三者はこの場にいない。
ビンを手に取り中身を口に含む。腰を折り曲げ、小さな顔の横に肘を付く。頭を少し持ち上げると自然に唇が開いた。そこに自分の口の中のブランデーを流し込む。
ついでとばかり、つるりとした歯を舐め舌を絡ませ吸い上げた。ピクリと腕の中、華奢な体が身じろぐ。
ん、と漏れ出た声が何とも艶めかしい。
ティキは満面の笑みを浮かべて問いかける。
「ミランダ、目、覚めたか?」
「ティキ、さん?」
声と共に目が開く。深く暗い木肌色の瞳。ドイツに来てからよく見かける針葉樹の幹がこんな色をしていた。白い額にかかる髪も同じ色。こんなところまで、ミランダはドイツという国を思わせるのだなぁ、とポルトガル生まれの男は変な感慨を覚える。

ところで、ティキは女と朝の挨拶をしたことがない。
買った女は一緒にいる時間が長くなるほど高くなるから、欲がはけたらさっさと寝床から退散することにしている。暇をもてあます物好きな上流階級のご婦人の時間つぶしに付き合ったこともあるが、周囲の目を盗んでの情事に一晩はかけないものだ。
だから想像するしかないのだけれど、女を朝まで買ったり結婚なんてする男の楽しみは、もしかしたらこういうものなんだろうか。
子供だましのつくり話に出てくる王子のよう、相手が温かい眼差しで応えてくれることを疑いもしないで目覚まし代わりにキスをする。優しく笑いかけ、おはようと言葉を交わし、どちらからともなくもう一度唇を重ねたり、そのままベッドに沈んだり。互いの顔を見ながら朝飯を食うのも楽しそうだ。

そうだ、次は、ミランダにこんな風に起こしてほしいと言ってみよう。きっと真っ赤になって泣きそうになりながら、とんでもないと拒むだろう。ダメです、無理なんです、と。
けれど、何度も繰り返し頼んだら恨めしそうにティキを見上げながらも承知するに違いない。目を開けて最初に見るのがミランダの真っ赤な頬と涙目だなんて、随分と楽しそうだ。
思いついた名案に胸が膨らむ。視界が明るい。小さな明かりが灯ったように。

期待に輝く琥珀色の瞳の見守る中、ダークブラウンの瞳が何度か瞬く。
「あぁ、おは...」
「き、きゃぁあぁ! ティキさんですか?」
目が合うや否やティキの声を聞きもせず、ミランダは悲鳴を上げてベッドの上を後じさり壁にへばりついてしまった。ベッドが壁際に置かれていなければ、そのまま転げ落ちていただろう。両膝を胸にひきつけて、細い指が後ろ手に壁を探る。恐いものから逃れようとするかのように。小さく小さく縮こまる華奢な体。
膨らんでいたティキの気持ちがスゥッとしぼむ。視界が暗い。当然だ。それでなくても日が雲に隠れる雨天だというのに、ミランダの部屋は日光の差し込まない裏道に面しているのだから。しかもランプを点けていないことに、ティキはようやく気がついた。
外は嵐。さっきからドタバタとイスを引きずったり人の体が倒れたりしたが、誰かが様子を見に来る気配はない。多分、ミランダがよくやることだからこのアパートの住人は慣れっこになってしまってるのだろう。まして彼女の悲鳴など日常茶飯事だ、窓を殴りつける風と雨の音に紛れて誰も気にしない。

そこまで一気に考えて、ティキはベッドに膝をついた。硬いスプリングがギシリと鳴る。今まで受け止めたことのない重みに不平を零しているようで笑える。頓着せずに距離を詰める。
左手をミランダの顔の横の壁に付く。右手ですくんだ薄い肩から続く細い二の腕を掴む。細めた目を相手から離さず、ゆっくりと顔を寄せる。
震える唇に自分のそれを押し付けた。ダークブラウンの瞳が大きく見開かれる。不器用な女だ、息を継ぐことは期待できない。酸素不足で倒れられてもつまらない。触れてから頭の中で三十まで数え、離した。
予想どおり、ミランダは真っ青になっていた。目の縁に溜まっていた涙が、堪えきれずにポロリと白い頬を零れ落ちていく。壁に張り付いていた細い指が、胸の前、祈るようにして自分の服を握りしめている。神に助けでも求めてるのか。けれど強く握れば握るほど、服にできるシワは深くなる。そこに落ちる影も濃く暗くなる。

女の様子をつぶさに見てとり、ティキは思う。もったいなかったなあ、と。
さっき。
初めてキスした時、ミランダの意識があったらよかった。そうしたら、多分もっとたくさん涙を流して、たくさん震えただろうに。もしかしたら逃げようとして、彼女なりに何かしらの抵抗をしたかもしれない。爪を立てただろうか。叩こうとしただろうか。小さなクモ一つ殺せないほど優しく臆病なミランダが? そんな抵抗などティキに対して何の意味もないと気づいた瞬間、どんな顔をするか見たかった。
だが、すんでしまったものは仕方ない。
ミランダはすっかり脅えて固まってしまっている。こうなったら暴れよう、抗おうなんて欠片も思いつかないに違いない。

それはそれで好都合。
頷きティキは唇を歪めた。
目の前の相手を頭のてっぺんからつま先まで、舐めるように眺め回す。頭の中では既に彼女は何も身に着けていない。想像の中で真っ白い肌を撫で回してみる。肉付きの薄い体は硬そうだが、さっき触れた頬と同じく氷のように滑らかで手の平に吸い付く感触は心地よいだろう。
何より、男を知らない女を抱くのはこれが初めてだ。初めて同士ということで、互いに楽しめるのではなかろうか。
いつの間にか乾いていた唇を舌で湿す。

さっきの反省もあって、ティキは急がなかった。
ゆっくりと、まずは目で楽しみ次に頭の中で楽しみ、実際に触れて楽しむのはその後でいい。どうせミランダは逃げられない。

長いスカートからほんの僅か白い足が覗く。細い足首。ティキなら片手で掴んでも指が余る。さっき寝かせるために靴を脱がせた時は何も感じなかったが、今は酷くそそられる。悪くない。
それら全てを視界に収め、おもむろにミランダの頭へと手をやった。ゆるく結い上げた髪を留めている布切れをほどく。長い髪がなだれ落ちて薄い肩を覆った。

「ティ、キさん...」
「うん?」
「あの、...すみま、せん...ティキさん...」
長い髪を手に取り口付ける。しぼれば水が滴り落ちそうだ。自分の舌より唇の乾きを潤してくれるそれに触れるたび、ミランダの体は面白いほど反応を返す。言葉も途切れる。
「わたし、私、知らなくて」
知ろうとしなかっただろう。ティキが本当はどんな人間か。
勝手に思い描いた『優しくて親切なティキさん』しか、その目に映そうとしなかっただろう。
だから、今、教えてやるよ。

涙に濡れる頬に口づけて舌を這わせた。ティキの掴む細い腕が小刻みに震えている。
「わたし、ティキさんがこんなに格好いいなんて、しらなく...て」
だから? 嬉しい? 悲しい?
どっちでもいい。
涙をこぼし続ける目に唇を寄せる。ミランダは大きく見開いていた瞳をギュッと閉じてしまった。押し出された涙がボロボロと頬を伝い落ちる。
「私、こんなだから、全然、あの、ティキさんに似合わなくて」
それで? 止めろと? 放せと?
ティキもよく使う。女と別れる時、仕事先から引き止められた時、体よく断るための口あたりのよい言葉。
できるわけがない。

掴んでいた髪を離す。そのまま足首へと指を伸ばす。
「でも、わたし。わたし、ティキさんが好きなんです」
届いた言葉にティキの動きが止まった。
思わず、顔を離した。目が合った。視線がぶつかる。まっすぐこちらを見詰める瞳にティキだけを映している。酷く恐い顔をしていると自分でも思うのに、臆病な筈のミランダは目をそらさない。
もう一度、ミランダはひび割れた声で繰り返した。
「私、ティキさんが好きなんです」

瞬きも忘れ目の前の女を凝視する。ダークブラウンの彼女の目から透明な涙が次から次へと溢れ、頬を伝い、とがった顎から滴り落ちて服に濃い色の染みをつくる。薄い肩も、服を握りこんだ右手もそれを覆うように重ねられた左手も、薄い唇も白い歯も、全てが小さく震えている。
けれど、それら全てはティキの先程からの行動が原因ではない。では何がミランダをここまで脅えさせているのか。
多分、これまでのティキだったら気づきさえしなかった。気づいた今のティキだって、その理由が分かるわけでない。
分かりはしないけれど。

きつく握り合わされたミランダの手を、青年は両手で包みこんだ。





このシリーズ中、一番最初に出来上がってたお話。ようやっとお目見えできてよかったv

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