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ティキミラ過去捏造パラレル。時計職人(見習い)の恋人5の続き。時間軸的には01の後になります。
ミラさんとティキさんとの初デート。の日は記録的な大雨でした。
今回は「二人の~ 7」と全く同じ。誤字脱字くらいは修正したかな。
次のお話のあたまに「二人の~ 7」参照と書きゃよさそうだけど、副タイトルが違ってきちゃうから。
このシリーズの副タイトルは全て群青三メートル手前さんの「彩日十題」より。
よろしければ、続きをどうぞ。
05. お手上げです、きみには敵いません。
ミランダの部屋、火の入った暖炉の前で、ティキは何をしゃべるでもなく突っ立っていた。機械的に手を動かし、彼女の用意してくれたタオルで頭や服を拭う。何を話せばいいのか思いつかない。
それはミランダも同じらしい。
少し前までコマネズミのようにタオルだ暖炉だチョロチョロしていたのが嘘のように、ティキのそばで火にあたるでもなくジッと踊る炎を見詰めている。
不思議と気詰まりは感じないが、このままでは彼女が風邪をひく。借りたタオルは絞れば水が滴りおちそうなほど濡れてるし、もう一枚借りてミランダの頭を拭いてやったほうがいいかもしれない。
口を開きかけたティキを遮って、ミランダが決然と(まさしく一大決心をしたかのように)顔を上げた。
「ティキさん、シャワーをお先にどうぞ。風邪をひいたら大変ですから」
「ミランダのが先だろ。部屋の主さしおいて入れないって」
「でも!」
「ミランダ、いーから。これくらいはオレにも格好つけさせてくれない?」
シャワーを譲ることが何の格好つけになるのか分からないが、彼女を納得させることはできたようだ。
弾かれたように謝りだして、キッチンから椅子を引きずって来て暖炉の前に置いた後、ティキが礼を言う間もなくバスルームにかけ込んだ。
タオルを首にかけパチパチと薪が燃える音を聞きながら、ティキは椅子に座りグルリと部屋を見回した。
女の部屋に招き入れられたのはこれが初めてではないが、どこも細々とした用途の分からないものがアチコチ飾られていたように思う。ひきかえ、この部屋はベッドの傍らのテーブルの上でティキの贈った花束が誇らしげに胸を張っているものの、飾りと呼べるのはそれくらい。物が少ないような気がする。
また、随分と整理整頓がいき届いている。白を基調とした部屋の隅々まで覆う清潔さは眠気を誘う。ティキが三ヶ月前から寝泊まりしている屋根裏とは大違い。それがどうにも落ち着かない。
ポケットからタバコを取りだしたが、火をつける気になれない。どうせ雨に濡れて吸えないだろうと、ズボンに戻した。
部屋の主は五分もしないうちにあわただしくバスルームから姿を現した。ハイネック、長袖、足首まで覆うロングスカートに着替えている。服の淡い緑がまぶしくて、目を細める。
「入ってきました。ティキさん、どうぞ!」
何も、そんなに意気込んで宣言しなくてもよかろうに。
ティキは被ったタオルでガシガシと頭を拭いた。
「ミランダ。やっぱ、オレ帰るわ。タオル、ありがとな」
「ティキさん? ...何か気にいらない物でも私の部屋にありますか?」
語尾が震えている。今にも泣き出しそうだ。
「いや、そうじゃなくて」
「狭いのがよくなかったですか? 確かにバスルームも古くて中々お湯が出なかったりしますけど、でも、私が出る時はお湯でしたから大丈夫です」
大丈夫でないのは、お湯でなく。
「でもさ、ミランダが迷惑だろ。えっと、まだ会って二ヶ月にもならないし」
「迷惑だなんて! あの、こんなこというとまた呆れられそうなんですけど、この部屋に知ってる人がきてくれたの、ティキさんが初めてなんです。ずっと憧れてたんです、だから嬉しくて」
喜びに上気する顔を前にして、ティキに選択肢などあろうはずもない。
「あ~、うん、じゃぁ、ありがたく」
自分が床にしたたらせた滴の跡を横目に見ながら、バスルームの扉を閉めた。
熱いシャワーを頭から浴びながら、ティキはじっと蛇口を眺める。
これは、つまり、所謂ひとつの据え膳というやつではなかろうか。カモがネギしょって待っててくれるというか、コイが自分からまな板にのっかってくれたというか。
いやいや、ミランダにそんな意図がないことはさっきの態度を見れば一目瞭然。
ティキがシャワーを浴びている今から遡ること三十分。
雨に降られた待ち合わせをした公園で、さてどこへ行こうかという話になったとき、とりあえずミランダの部屋で暖を取ろうと言い出したのは彼女の方だった。喜んで頷いたティキに下心がなかったとは言わない。言えない。
が。
とんとん拍子に話が進みすぎて、逆に誘いをかけにくい。
彼らしくもなく頭を働かせて、ようやっと気づいた。数分前までミランダがここで、裸で、シャワーを浴びていたのだ。
想像し頭に血が上るのは、何ものぼせたからではない。思わず手で口を押さえる。
そこで自分の体の変化に気付き、ティキは慌て、慌てた自分にため息を吐いた。
一体、どこの欲求不満のガキだ。余裕がないにも程がある。
他人の家のバスルームでマズイよなぁとうなだれつつ、手早く自分で処理した方が部屋の主のためだとも思う。
このまま彼女の顔を見たら、ティキは今までバカにしていた愚かなことをしでかしてしまいそうなのだ。
なるほど、女はバカだ弱い男がいなければ何もできない、と男たちが言うわけだ。男の語る言葉に真実を求めるなど砂漠に真珠を探すと同義。
彼らが語るのは、夢や希望。そうであってほしいと強く願えばこそ、ことさら口にし確認しあう。
であるならば、自分もようやっと一人前の男になったということだろうか。だとしたら男というのは辛いものだ。
とにかくさっさと終わらせないと。
手を伸ばしかけたところへ、扉の外から声がかかる。
「ティキさん、服を貸してもらえますか? すみません、私ったら全然考えなしで、その、男の人の服、私、持ってなくて」
ゴン。
ティキは額をバスルームの壁にぶつけた。痛かった。
頭を抱えてしゃがみ込む。
「ティキさんがシャワーを浴びてるうちに、タオルと一緒に服を絞っちゃっていいですか? 少しは乾きが早くなると思うんです」
声が恥ずかしさに震えている。きっと涙目になって耳まで赤くしている。タオルを胸に抱きしめながら、扉を見るのさえ恥ずかしいとばかりに後ろ向きで喋っている。
あまりに簡単に想像がつきすぎて、
「あのさ、ミランダ!」
我慢できずにティキは勢いよく部屋へと続くドアを開けた。ミランダは、真っ赤な顔をこちらへ向けて。
悲鳴も上げずにひっくり返った。
ティキの名誉のために一つだけ。
一応、彼は腰にタオルを巻いていた。
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