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ティキミラ過去捏造パラレル。時計職人(見習い)の恋人4の続き。夕暮れ時、仕事帰りのミラさんがティキさんと肩並べて歩いてます。
副タイトルは、群青三メートル手前さんの「彩日十題」より。
よろしければ、続きをどうぞ。
04. 手を繋いで隣を歩けるだけで
「なぁ、ミランダも仕事が休みの時ってあるんだろ?」
隣を歩くビン底メガネの男から尋ねられて、ダークブラウンの髪を頭の後ろで団子にしたやせっぽっちの女はビクリと薄い肩を揺らした。一拍間をおいてから、観念したように頷く。
「は、はい。あります」
「いつ?」
「えっと、その、....明日、です」
「へぇ、そりゃよかった。オレも明日仕事が休みなんだけどさ」
「そう....ですか」
ムチで叩かれたようにミランダは震え項垂れた。さっきまでの浮かれた気分はどこへやら、ズシリと肩が重くなる。
とうしよう。
ポルトガル出身だという時計職人見習いのティキと知り合ってからそろそろ二ヶ月。気がつけば、ミランダは毎日のようにこの男と顔を合わせている。彼女の仕事がある日もない日も。
「たまたま仕事で近くに来たついでだ、女の一人歩きは物騒だし」と言って勤め先から家まで付き合ってくれる彼は優しい。
その優しさに甘えて、仕事がなくても彼と最初に出会った公園へ出かけてしまうミランダはずるい。それも、仕事帰りと言い訳できるよう同じ時間帯、同じ装いを取り繕うあたり言い訳のしようがない。
積み重なる後ろめたさに心を痛めていたところへ冒頭のティキのセリフ。
ミランダの気分はどん底まで落ち込んでしまった。
やっぱり自分と歩くのは彼にとって負担だったのだ。優しい人だから、何となく気がかりでミランダの様子を見に来てくれていたのだろう。そしたら毎日いたりするから、区切りがつかなくてズルズルきてしまったのかもしれない。ティキもミランダも仕事が休みで、ようやっとゆっくり出来るとホッとしたに違いない。
実は明日も仕事が休みなことは黙って公園の入り口で彼を待とうと考えていたのだが、悪いことはできないものだ。いや、この二月もの間悪いことをしてしまった。
いっそ帰りの道順を変えたほうがいいだろうか。もう心配してくれなくても大丈夫ですと言ったほうがいいだろうか。
でも確か、こういったことは何度かしたのだ。その度、どういうわけか二人鉢合わせして、だったら公園で時間を決めて待ち合わせした方がいいと言われてそうした気がする。
巡り巡って出発点に戻ってしまった。もう、ミランダにはどうしたらいいか分からない。グルグル目まで回ってきたところに、止めの一言が降ってくる。
「じゃぁさ、一緒にどっか行かない?」
どうにかこうにか手足を交互に動かしていたが、相手の言ってることが腑に落ちた途端、踵が心臓と一緒に跳ね上がり、あっという間に後頭部が石畳に沈んだ。拍手したいほど見事な転びっぷりだ。何でも面白がるティキだったらこう言うんじゃないないだろうか。
コブのできた後頭部に手をやって起き上がりながら予想する。案の定、ティキは手を叩きながらミランダの前にしゃがみ込んだ。
「久しぶりだな、ここまで見事な転びっぷり見るの。っと、ミランダ、大丈夫か?」
「あぁあの、ティキさん」
「ん?」
ミランダは座り込んだまま、覗き込んでくる男を見上げる。ギュッとスカートの端を握りこんで。
「あの、あの、私! 私、その、今、小さなカフェで働いてるんです」
「うん? あぁ、知ってる。ってか、それ最初に会った時、言ってなかったっけ? 腕のいい料理人兼オーナーがサングラスかけて中華鍋ふり回してんだろ」
「はい、とってもお料理が上手で、世界中のお料理を知ってて、それで、私は料理も下手で手際が悪くて沢山ご迷惑かけちゃって、それなのにクビにしないで下さって」
「ミランダ?」
どうも話が逸れてきた。気づいたティキは問いかけるよう名前を呼んだ。するとミランダは慌てて口をつぐむ。小さく息を吸って吐いて。
ゴクリと唾を飲み込んでから、再び口を開く。鼓動が早鐘のように耳の奥で鳴っている。
「だから、私、いっつもお皿洗いとかお料理や飲み物を運んだりとかしか出来なかったんです。でも家で一生懸命料理の練習してたら、最近、サンドイッチだけは作らせて頂けるようになって」
正確には、店がとても暇な時オーナーが時間つぶしも兼ねてミランダの料理の練習に付き合い、運よく売り物になりそうなものが出来あがったら出せる、というべきだが、今重要なのはそこではない。
重要なのは、この日は幸運に幸運が重なって親子連れの客に、彼女が初めて自分の作った料理を(サンドイッチを料理と言えればの話だが)供せた事実だ。自分の作ったものを自分以外が口に入れてくれたのを見た時、彼女は天にも昇る心持ちだった。
そんなわけで、ミランダはかつてないほど気が大きくなっていた。
でなければ、こんな自分の身に不相応な誘い、考える前に断っていた。ティキに会う前まで同様。
ミランダより察しの良いティキはいち早く話の筋を飲み込んでくれたようで、いつもと同じように「うん?」と相槌にも肯定にも取れる応えをくれる。ミランダの言葉を待っていてくれる。そんな態度に励まされ、つっかえつっかえどもりながら、ミランダは多分一生分の勇気を振り絞って自分から相手に何かを提案した。
「そのあの、それで、えーと....どこか行くのに、何か食べるもの、あった方がいい気がして、だったら私、サンドイッチだけなら、ちゃんと....作れるので......」
ティキが白い歯を覗かせて、嬉しそうに笑う。つられてミランダも泣き笑いを浮かべる。もう一押しすれば大きな目から涙が零れ落ちそうだったが、幸い、もう一押しするようなハプニングもからかいの言葉もなかったので。
「楽しみだ、サンドイッチ」
本当に楽しそうな口調で言う相手に、今度こそ心からの笑顔を返した。
「でさ、ミランダ。いい加減、立たない?」
小さく首を傾げて、ティキが手を差し出す。ハタと我に返ったミランダが、キョロキョロ視線を動かし、転んで座り込んだままだったのを思い出した。慌てて腰を上げようとした彼女の手首をしゃがみ込んだティキが掴んでいる。困った。これでは立ち上がれない。
訳が分からず目の前の相手の名前を呼ぶ。
「ティキさん?」
「ん?」
反対方向に首を傾げて、ティキが手をヒラヒラ振った。意味するところを理解して、顔に血が上る。きっと首まで真っ赤だろう。思わず俯いた視線に大きな手の平が滑り込んでくる。
覚悟を決めて自分の手を相手のそれに恐る恐る重ねた。初めて触れ合った手は大きくて温かかった。
相変わらずミランダさん視点だとティキさんがニセ者(笑)この後、お手々繋いでミランダさんの部屋までトロトロ歩いて帰ります。
でまぁ、時間軸的には01に繋がるわけです。
あちこち掴んだり抱きとめられたりしてても、手を繋ぐのはこれが初めてな二人でした。
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