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時計職人(見習い)の恋人 4

ティキミラ過去捏造パラレル。時計職人(見習い)の恋人3の続き。仕事帰りのミラさんがティキさんと肩並べて歩いてる時に、綺麗な置時計を見つけました。

副タイトルは、群青三メートル手前さんの「彩日十題」より。

よろしければ、続きをどうぞ。

 
 
続く道

03. ひねくれ者のおまえのことなんて、 2


「オヤジ、この時計何? 見せてもらっていい?」
「あぁ、構わんよ。先代の店主がどっからか拾ってきたもんでね。キレイな時計なんだがどうにもネジが回らなくて動かねェんでさ」
ミランダを連れたティキは、ハタキ片手に大きく伸びをしている壮年の男に声を掛けた。すると、ノンビリとした応えをよこされる。どうやら暇だったらしい。頭上には歩道まで突き出た看板。『古道具屋』と気取った書体で記されている。
古ぼけた道具を並べていた男はこの店の主で、彼が店の前に並べていたのだから、ミランダが一目ぼれした置時計も売り物なわけだ。が、店主の扱いはぞんざいで、口調も投げやりだ。
まあ、今言ったことが事実なら無理もない。

「へぇ、ホント? オレ試していい?」
「おぉいいぜ、ほらこれがネジ」
ティキの心に小さな好奇心が湧き起こる。相手がポイと投げてよこした実用一点張りの大きなネジを、彼は胸の前で受け取った。文字盤に開けられたネジ穴にそれを押し込み回そうとしたが、一ミリたりと動かない。
「んー、やっぱ、動かねぇや。壊れてるみたいだな」
店主の言葉を繰り返しながら、改めて目の前の置時計を眺める。間近で見てみれば、居候宅で様々な時計を見ている彼にも値の張る時計だと分かる。けれど、好きか嫌いかと問われれば「嫌い」と即答するだろう。
何事にも鷹揚で何かに拘ることのない彼にとって珍しい反応だ。
そのまま踵を返してさっさと時計から離れようとした彼に、遠慮がちな声がかかる。
「あの、ティキさん」
顔だけ隣に向けると、期待に満ちた視線とぶつかった。その持ち主が何を望んでいるかすぐさま理解し、ティキの背中を冷や汗が流れ落ちる。

確かに時計職人(見習い)と名乗っちゃいるが、ティキの実態と言えば単なる時計職人宅の居候、手伝ってることといえば大きな置時計を客先へ届けたり、仕入先から部品を受け取ってきたりの力仕事ばかり。時計の修理などとんでもない、仕組みすら想像の彼方だ。
とはいえ、今更そんなことを相手に言えるわけもない。
困ったと思う前に、口が勝手に動いていた。
「悪いな、ミランダ。オレまだ見習いだからさ、親方のいないトコで時計見ちゃダメなんだ」
「そうですか」
答えを聞いてミランダはションボリと肩を落とした。口から出まかせを少しも疑っていない様子に口元が弛む。彼女はいつだってこうだ。ティキの言葉は彼女にとって厳然たる真実であるらしい。
言ってる本人すら三歩歩けば忘れてしまうのに。

ミランダの自分に対する揺るぎない信頼に気を良くしたティキは、女の細い手首を持ち上げ薄い手の平に時計のネジを落とした。上手く説明できないが、彼女に一刻も早くこの時計のことを忘れて欲しくなったからだ。珍しく熱をこめて、この時計が役立たずなことを納得するよう促していた。
「でも修理しても一緒さ、かなり古そうだし。そうだ、ミランダもやってみ。自分でやって動かなけりゃ」
諦めもつくだろう。
続けようとした言葉は喉で止まった。

カチカチカチ
ティキが見つめる先、ミランダがゼンマイを巻いていた。うんともスンとも言わなかった時計のネジが滑らかに回っていく。秒針が音を立てて動き始める。店主はすっかりご機嫌だ。馴れ馴れしくミランダの背中をバシバシと叩き、喜びの声をあげる。
「動いた! 時計が動いたよ。誰がやっても動かんかったに!!」
ゴーン、ゴーン....
ネジを巻ききったミランダが置時計の表面を撫でると、応える様に鐘の音が響いた。まるで愛しい誰かを労わるような彼女の気遣いに溢れた手の動き。ヒタと文字盤に据えた目は涙ぐんでいる。ティキでなくたって彼女の心の内が手に取るように分かる。
嬉しい。
今、彼女の心を占めてるのはそれだけだ。ティキのことだって忘れてる。
こんな商機を逃すようでは店など持てない。古道具屋の主は畳み掛けるようにして続けた。
「買いなよあんた!」
ネジを両手に握りしめ立ち尽くすミランダだけなら、あっという間に話はついた。
しかし。

「ちょい待ち。おやじ、この時計、捨てるつもりだったんじゃねぇの?」
「そりゃまぁ動かなかったから。でも、このお姉ちゃんが動かせたのにわざわざ捨てる必要もないだろう?」
「でも、ネジを巻けるのはミランダだけだ。ミランダ以外のヤツにとっちゃ場所とるだけの無用の長物、ミランダ以外に買う奴なんていやしないぜ? それなのに、正規の値段で買わせようってか? ちょっと都合が良すぎやしねぇ?」
「別に構わんさ。この姉ちゃんが動かせたんだ。そのうちまた動かせるヤツが出てくんだろ」
「でもオレは動かせなかった。アンタもな」
店主とティキの視線がぶつかる。二人を交互に見比べ、ミランダがオロオロし始めた。

「....一割引でどうだ」
「話にならねぇ」
「二割」
ティキは黙って首を振る。
「えーい、四割だ。これ以上はオレにだって生活ってモノが」
「オッケ。んじゃ」
ティキはミランダの背を押した。置時計に背を向ける。未練を隠しきれない彼女はチラチラと振り返るが、追い立てるようにして石畳を歩き始める。心得顔でこちらを眺めてくる店主と一度だけ頷きあった。話の分かるオヤジで何よりだ。

***

二週間後。
ミュラー氏が居候の青年が住みついた屋根裏へ上がっていくと、そこは足の踏み場もないほど散らかっていた。脱ぎっぱなしの服だけならまだしも、ゼンマイやらネジやらが無造作に床に転がされている。ベッドの脇には大人の背丈ほどの置時計....の残骸。バラバラに分解され、材料の板や振り子、三つの針がベッドの上に置かれ、あるいは壁に立てかけられていた。
呆気に取られて部屋の入り口に突っ立っている彼を床に座り込んで何やらやっていた黒い癖っ毛の青年は一瞥し、「何か用か」と視線で問いかけてきた。ように思った。何しろぶ厚いメガネ越しなので確信は持てない。

「オマエ、コレ自分だけでバラしたのか?」
「あぁ? オレ以外に誰がいんだよ、もうボケたか」
ミュラー夫人は青年が上品な言葉を使うようになったと喜んでいるが、どうしてどうして。街角で彼を拾った時からガラが悪いのは変わらない。
「オマエ、時計に興味があったのか?」
「......」
相手は不機嫌そうに黙り込んだ。ミュラー氏も黙る。根競べは得意だ。
しばらくして青年が口を開いた。珍しくゆっくりとした口調だった。
「同じ条件で同じように使えば、扱うのが誰だろうと同じように動く、それが道具ってもんだ」
ほう。いっちょまえに言うじゃねぇか。
ミュラー氏は藤色の目を細めた。
「けど、この置時計はミラ....ある女しか動かせなかった。その動かせた奴はこの時計が自分を選んでくれたようで嬉しい、って言った。声に出しゃしなかったけど、でもオレには聞こえた。でもそんなの嘘だ。何か原因がある筈なんだ。じゃなきゃ、この時計は時計じゃない」
「別に構わんだろ。誰か一人のためだけの時計があったって」
ミュラー氏の口調にからかいの色を認めたか、青年はあからさまに嫌そうな顔をした。何があっても機嫌よくヘラヘラ笑っているいつもの彼らしくない様子に、ナーエン街の時計職人は頬を緩める。

「で、分かったか、その原因」
「まだだ。もっかい組み立てて確認しないと分かんねぇ」
「ふん? どうやって確認してんだ?」
「部品を一つ一つ外してって組み立て直して動けば、外したやつが原因だって分かる」
「オマエにできんのか?」
「できる。何個か小さい時計で試した」
なるほど。この二週間、時計が仕事場から消えては戻ってきた原因はそれか。
屋根裏を訪ねた目的を達して一つ頷いたミュラー氏は、すぐさまぶつけられた質問に内心慌てた。
「で? 盗みの疑いは晴れた?」
青年の口調からは特別な感情は読み取れなかった。外は雨が降ってるか、と尋ねるようだった。それだけに、青年が何を考えてそんなことを言ったのか、図りかねる。普通、泥棒と間違えられれば顔を赤くして怒り出しそうなものだが。

長身を折り畳んでネジを一つ一つ吟味している青年の様子をじっくりと眺めなおす。アチコチに散らばる時計の部品を見れば分かる。普通なら師匠について何年もかけて身に着ける技術を、この青年はどれ程長く見積もっても一ヶ月とかからずモノにしてしまっている。
「オマエ、時計職人になるか?」
認めればこの言葉はおかしなものではない。少なくともミュラー氏にとっては。
言われた相手は動きを止めて固まった。

こういった誘いを何度か受けたことがあるらしいと、彼の妻はミュラー氏に喋ったことがあった。
そして、誘われるたびにあの子は当たり障りのない言葉で断っていたようよ、とも。
彼の妻の想像した理由は二つ。
一つは、同じ場所に繋ぎとめられるのが面倒だから。
二つ目は、あの子は自分が流れ者であるということを骨身に染みて知っているから。

ティキのように街から街へ流れる者は、生まれてから死ぬまで同じ場所で暮らす人間の中にあって、いつまでたってもよそ者だ。便利だから、役に立ちそうだから、仲間に入れてやる、それだけのこと。役に立たなくなったら彼がどれだけ望もうと真っ先に叩き出される、そんな存在。
誘われて、断る。選んでいるのはティキのようだが、実際は選択肢などなきに等しい。
こんな風に考えているのではないかと。
もしそれが本当なら、いい年をして随分と甘えた根性の持ち主だ。

だから青年が口を開いた時、頷かないだろうとミュラー氏は半ば思っていた。その時、何かの(もしかしたら誰かの)影が分厚いメガネを横切ったのを彼は見た、気がした。
「返事、もう少しだけ待ってくんねぇかな」
そっぽを向いて呟くバカ弟子見習いのワガママを、あごひげをたくわえた時計職人は、フンと鼻から息を吐いて許した。



ちょっと長くなった? このシリーズはできるだけエピソード省略したくないので。(既にティキさんがミランダさんと仲良くなる過程、すっ飛ばしてるけど。....このエピソードもいつか書けたらなぁ)

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