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うーわ~、あっという間にお話が頭に! こういうのを怪電波っていうんだろうか。予定は未定とはよくいったもので。二次創作にとっての原作の力ってスゴイ。
えーと、アレリナ前提ミラ→ラビ→リナです。今回本誌のリナリーちゃんが可愛くて!
よろしければ、どうぞ。
名前を呼んで
優しく穏やかに誰かを愛する人だと、何の根拠もなく信じていた。
思いを寄せる相手に傷一つつけることさえ自分に許さず、そうして自分が傷つくことを上手に避ける、そんな器用さと臆病さを持っている子だと、何故か勝手に思ってた。
けれど今、鏡に映る光景はミランダの愚鈍さを笑い飛ばすように、現実を彼女に突きつける。
小さな明り取りから一筋の光差し込む小部屋の隅に、この鏡はあった。
白い筋が所々に走る古ぼけたそれに、赤髪の青年と黒髪の少女が映っている。
青年は少女の細い両腕を大きな手で掴んでいる。少女は青年から逃れよう離れようと身を捩るが、あまりに違いすぎる腕力の差に肩を僅かに揺らすだけだ。青年の太い指が薄い服の上から少女の柔らかな肌に食い込んでいる。
痛くないだろうか。傷にならないだろうか。
ミランダのよく知る二人だ、気遣う言葉をかけても何ら不思議でない。
が、ミランダはしなかった。
ただ、銀色の光を放つ鏡の表面にピタリと両手をつけ、見開いた両目にそこに浮かぶ場景を映す。
声は聞こえない。
鏡が映すのは、目に見えるものと時々は目に見えないものの姿だから、幾ら時を戻したところで音は何一つ映ったりしない。
けれどそれが何だろう。
顔を背けようとする少女の肩を掴み寄せ、怒鳴るように口を開け、それでも頭を振り聞きたくないと泣き出した花の顔(かんばせ)を睨みつける隻眼には、間違えようのない熱が煌めいている。
彼の記録するどんな難しい言葉より、彼の知るどんな深遠な思想より、彼の行動は雄弁だ。
彼が操る炎よりも激しく、彼が呼び寄せる雷よりも眩い思いを、彼は全身で叫んでいた。
「オレはリナリーが好きだ」
視界が瞬く間にぼやけていく。
心乱れて同調率の下がったミランダに、刻盤(タイムレコード)を発動し続けることはできない。
目の縁から涙が零れ落ちるより早く鏡の時間は現実に立ち返り、そこに映るのは痩せこけたみすぼらしい女の姿。目の下には黒いクマが張り付き、病人のような青白い肌、浮き出た鎖骨も尖ったあごも、女らしさと程遠い。
何を嘆くことがあるだろう。
こんなみっともない七つも年上の女が、力に溢れ光り輝く未来へ進む青年に向けた気持ちが叶うことを期待していたと?
神の力を悪用し、あの二人以外だれも知ってはならない光景を盗み見るような卑しい真似をしておきながら、外見や年の差などを彼に選ばれぬ理由に持ち出すいじけた心根の持ち主の抱く思いなど、気づかれなくて幸いと喜ぶべきだろう。
でも。
「う、うぇ、ぅ、え、えぇえ」
ラビ君ラビ君ラビ君
心の中、喉も裂けよと彼の名を叫ぶのに、口をついて零れるのは意味を成さない嗚咽だけ。
溢れる涙は尽きることなく頬を伝い、埃の積もった床に丸く黒い染みを描く。
吐き出す息で白く曇った鏡をもうミランダは見ていない。拳を固めズルズルと崩れ落ち床に膝をつき項垂れ背中を丸める。薄っぺらい体が小刻みに震え、くすぶる思いをどうすることもできずに彼女はひたすら鏡を叩いた。
ラビ君ラビ君ラビ君
もう呼びかけてはいけない名前。もうこの地上のどこにもいない人の名前。
それでも、ほんの数分前までは口にするだけでこの身を温め彼女を勇気付けてくれる魔法の言葉だったのに。
どれだけそうしていたのか。
何かに呼ばれた気がしてミランダは顔を上げた。
膝の上、黒光りする刻盤(タイムレコード)が仄白く放つ光を反射して、鏡が柔らかく彼女の周りを照らす。光の縁に転がっているのは。
瞠目して、ミランダは夢でも見るかのようにそこに転がる黒い槌を....手の平に載ってしまうほどの小ささのそれへと手を伸ばした。
あと少しで手が触れるという瞬間。
光が消え、槌も空気に溶けるように姿を消す。
残ったのは神の奇跡の欠片。ガラスの破片にも見える小さな黒い塊。もう一度伸ばした指を、しかしミランダは握りこんで目を乱暴に擦り足を踏みしめ立ち上がった。
「ラビ君」
口の中、小さく呟く。この名を呼ぶのは、これで最後にするから。自分の思いなど彼には何の意味もなく、記録の対象にもならないチッポケなものだ。
けれど。
「私は貴方が好きでした。
貴方が貴方の選んだ道を最後まで貫くことができますように」
炎のように人を愛せると知った優しく不器用な青年へ、遅すぎた餞(はなむけ)の言葉をどうか。
このラビ君はブックマンになってそうだなぁ。
ラビ→リナだけでもよさそうな話だけど(そしたらミランダさん、こんなに泣かなくてすんだんだけど)、私がミランダさんの出てこない話を書けないという致命的な理由によりこんな感じに。
ミランダさんが盗み見ちゃったのはワザとじゃなくて、訓練しようと迷い込んだ部屋で偶然この鏡があったっていうだけです。
今思いついた、コレ、同タイトルのティキさんバージョンと同軸上でもよいかも。そしたら見事な一方通行LMT(ラビ←ミラ←ティキ)に! ....や、止めとこ。
そのうちラビ君バージョンも書きたい、かな。
片思いって、よほどのナルシストでない限り打算がない分純粋な気がして、そこに美を見てしまう癖が書いてる人間にはありまして。
美しさは純粋さの中に、幸せは曖昧さの中に。なんて。
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