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ティキミラ過去捏造パラレル。時計職人(見習い)の恋人2の続き。説明もなくミラさんは仕事帰りにティキさんと肩並べて歩いてます。
副タイトルは、群青三メートル手前さんの「彩日十題」より。
よろしければ、続きをどうぞ。
03.ひねくれ者のおまえのことなんて、
ミュラー氏はナーエンに居を構える腕のいい時計職人だ。
日曜は必ず妻と揃って教会に出かけ牧師の説教を文句一つ言わず拝聴し、間違って多く貰った釣り銭を黙って店の者に返すような人間で、これまでの人生をコツコツ真面目に生きてきた。
過ちを犯したことがなかったとは言わないが、神の怒りに触れるようなことは決してするまいと決め、事実、そうだった筈だ。
それなのに何の因果でこんな面倒なことになっているのか。行き倒れの若い男が自分の家に居候を決め込んでもう二ヶ月になる。
彼はこうなった理由も解決方法も思いつけずにいる。いや、解決方法は分かっている。ただ飯食らいの厄介者をさっさと追い出せばいいのだ。
が、彼の妻はそうは思ってないらしい。家の用事や夫の仕事の手伝いをビン底メガネの居候へと一々頼み、子どもだってできそうな簡単な言いつけを終える度にその男へ嬉しそうに礼を言う。何度かこの男についてキチンと話そうとしたミュラー氏だが、夫人にはぐらかされ叶わない。
もしかしたら。
ミュラー氏は思う。
この妻の態度こそが一番の頭痛の種なのかもしれない。
***
六月とはいえドイツの北に位置するナーエンは太陽が出なければ肌寒い。そして、この地方では太陽が姿を見せる日の方が少なく、今日も一日どんよりと厚い曇が空を覆っていた。夕闇が迫り気温も下がり上着をもう一枚重ねようとしたミュラー氏は、見慣れた黒い癖っ毛とビン底メガネの持ち主の姿を見かけていないのに気づいた。ヒゲをたくわえたアゴを摘みながら妻へと尋ねる。
「あのバカはどこに行った」
「たしかベルリーニの問屋さん」
「またか」
憮然と呟いたミュラー氏に、ミュラー夫人はふふふと笑った。
「ベルリーニに誰か好きなお嬢さんでもいるんじゃないかしら。あの子のドイツ語、お聞きになったでしょ? 随分と上品な言葉を使うようになって。....高嶺の花だったりしないといいんですけど」
二十年来連れ添った妻は気遣わしげに眉根を寄せる。ミュラー氏としては「そんな訳あるか」と笑いとばしたかったが、話題の主が時々覗かせる冴え冴えとした容貌を思い返すに決してありえないとは言い切れない。黙ってアゴから手を離した。
一方、同時刻のベルリーニ。ナーエンの南東に位置する隣街である。
ミュラー氏が心中のたまうところのただ飯食らいの居候はミュラー夫人の言葉通り、この街の石畳をお嬢さんと肩を並べて歩いていた。ただしこの女性、吹けば飛ぶよな痩せっぽっちで高嶺の花とは言い難い。
それでも、隣を歩く男に今日一日の出来事をとりとめなく話しかけ嬉しそうに微笑む様子は、おっとりした仕草と相まって上品といえるのではなかろうか。少なくとも、ティキがこれまで見てきた中で誰よりも女らしい。その愚かしさも含めて。
自分は運が悪い、役に立たないと嘆く彼女は知らないのだろう、若い女であるというだけで役に立つ場所があることを。何の落ち度がなくてもそういった場所で手ぐすね引いてる連中から目をつけられてしまえば、後は堕ちるだけ。骨までしゃぶられ跡には何も残らない。
もっとも自分のような男に出会ったのだから、やはり運が悪いというべきか。
ミランダの話に頷きながら、ティキはこみ上げる笑いを意識して柔らかなものへとすり替えた。
「そうなんです、だから私もビックリしちゃって!」
「ビックリ? 驚いたってこと?」
「すみません、私ったらまた。はい、それで....」
ニコニコしながら、ドイツで生まれ育った者なら知ってて当然の言葉や習慣を機にふれ折にふれ尋ねて聞き返し声に出して聞かせてみせる。
気が短い人間なら腹をたてたりうんざりと呆れかえるこんなやり取りを、ミランダはいつだって嬉しそうに続ける。
それだけではない。
時には発音を注意してくれたりスペルを教えてくれたりする。ありがたいことだ。おかげでティキがドイツに来てそろそろ二ヶ月、日常生活に不便はない。
本日何度目か、ミランダがティキに笑いかけ....ダークブラウンの瞳がそのまま彼の顔を素通りしてあさっての方向で止まった。ティキの眉がヒョイと上がる。彼女の視線を追いかけると、壮年の男が広くない道路に何やら古ぼけた道具を並べていた。
明るいモジャモジャの髪、無精ひげ、奥まった小さな目。ミランダはああいうのが好みなんだろうか。初めてティキを見た時はあんなに恐がっていたのに。
自分の時とあまりに違う彼女の態度に、なぜかティキの口調がトゲを含んだものとなる。
「どしたんだ、ミランダ?」
頭上から降ってきた声に、ミランダは夢でも見ているような眼差しでティキを仰ぐ。
「ティキさん? あの置時計、キレイじゃないですか?」
「時計?」
細い指が指し示すのに従って、視線を右にずらす。すると、大人の背丈ほどもある飴色の置時計が目に入った。首を傾げる。
「キレイ? そっか~?」
むしろ嫌な感じがするのだが。
渋い顔をしているティキに構わず、ミランダがフラフラと置時計の方へと足を進める。慌てて彼女の二の腕を引き寄せた。
「危ねーだろ、ミランダ」
注意するが早いか、彼らの脇を馬車が勢いよく走りぬける。ビクリと薄い肩が跳ねて、白い顔から血の気が引いた。
「すすすみません、ティキさん。私、あの」
手をワタワタと上下させる。まっすぐティキを見上げてくるダークブラウンの瞳。いつものミランダだ。気をよくしたティキは相好を崩してアゴをしゃくった。
「あの時計、見たいんだろ? じゃ、付き合う」
「えぇ! でもあのティキさんのご用事が」
「いーからいーから」
掴んだままだった二の腕を引っ張って道路を渡る。ティキの手の中ミランダの腕はあまりに華奢で握りつぶしてしまうんじゃないかと心配になるほど。だからといって離すのは更に心もとない。
どうしたものかと考える振りをする彼の頭からは、さっき時計を見たときの嫌な予感はすっかり消えていた。
しまった。また一つの副タイトルに複数の記事を。04は短くできそうなのに! 続きはこちら。
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